24話

いつものトサカヘッドに白い包帯が巻いて痛々しかった。大丈夫だ、大丈夫だ、と笑う彼が心配であった瞬間泣きそうになった。ああ、自分はこんなにも鉄朗が大切なんだ。そう自覚した。及川に抱いていた気持ちとはまた違う気がする。ううん、同じかもしれない。でも、今はそれを認めたくなかった。自覚したくないからそんな気持ちは頭から追い出した。


「本当に今日から部活出るの?」
「おー。出て謝んねぇとな」
「え?」
「先輩たちとか多分怒ってんだろ」
「……何で、鉄朗は悪くなんてないのに」
「それでも、面倒ごとは嫌いなんだよ」


大きな口をあけて欠伸をした彼は頭の上で手を組んで痛みで顔を歪めた。少し傷に手が当たったのだろう。
面倒くさそうに歩いていく彼の背中を見て、夜久に言ったことと同じことを言った。


「んなもんな、当たり前だろ。いい部活にするに決まってんだろ。後二年我慢したら俺らの部活だ」


厳しいけれど、楽しくてそれでいて団結できるチームになりたい。
俺らの部活、響きはなんだか悪いかもしれない。でも、それでも私たちはそれを目指して後二年。頑張るのだ。


「だね」
「おう。さぁて、面倒ごと片しにしくかねぇ」


ぐしゃりと乱暴に掻き回された頭に悲鳴を上げながら反撃とでもいうかのように鉄朗の背中を叩いた。
私は本当に鉄朗のそばにいるんだなぁ、と何故か実感する。きっと昔の私だったら及川と一の隣に立ってただ淡々と生活を送っていただろう。そしてバレー部に入ってまたリベロとして部活三昧の生活を送って、二人と帰って。そんな生活。
でもそんな生活を鉄朗に会って変えようと思えた。彼があまりにもいい笑顔で笑うから。全国に連れていくとか、いってくれたから。


「私、今のままでいいや」
「ん?何か言ったか?」


鉄朗が好きとか、今はそんなの考えなくていい。まだ、そんなの早い早い。時間なんてまたまだある。まだ高校一年生だから。


「なーんでも?」
「ふーん。ああ、そうだ」
「ん?」
「泣かせて悪かったな」


ぶっきらぼうなその言い方に、顔が火照ったのはきっと気のせいだ。そう思いなかった。
そんな時だ、電話が掛かってきたのは。携帯に表示されている名前はお馴染みの名前だった。


「ん?誰だ」
「ああ、及川」
「……出ねぇの?」
「うん。無視」
「……出てやれば?」


ぶっきらぼうにそう言われてじっと私の目を見てくる鉄朗のだるそうな目から顔が、目が逸らせない。その時だけ、鉄朗が怖かった。仕方なしに、電話の通話ボタンをタップした。その時に撫でられた頭に少しもやもやした。


「 もしもし」
《出た!?俺、及川!》
「 わかってるよ。どうしたの」
《いや、あの、声聞きたくて……元気?》


今まで電話が来ていてもすべて無視した。電話帳から消えていた番号に想像はついていたから一に及川の連絡先を聞けばビンゴ。
この電話の向こうではヘラリと笑って頭をかいているのだろう。みんなに見せるような笑顔を貼り付けて。


「普通」
《そっか。あ、おばあさんは?元気?》
「元気。それだけなら切るけど……」
《え?ああ、えっと……そっちはどう?楽しい?》
「うん。楽しいよ」
「楽しいって顔じゃねぇけどな。ぶふっ」
「鉄朗、うるさい」
「悪い悪い」


目の前で私の顔を凝視し、真似をしてくる鉄朗に腹パンを軽く入れる。ぐふっ、なんて聞こえたのは幻聴だ。


《 バレー、してる?》
「してるよ。違う形でも、してる」
《そっか。なら、俺は満足》
「?」
《お前がバレーを嫌いにならなくて》
「何言って……」
《#name2#がバレー嫌いになったら岩ちゃんも俺も悲しいからさ》


その声があまりにも悲しそうで、何で及川がそんなに悲しそうな声を出すんだと聞きたくなった。
バレー一筋でバレー馬鹿な及川と一。例え及川のことが苦手、嫌い、と言っても二人が悲しそうな顔をしているのは胸が痛んだ。声も同じだ、きっと顔に出ているだろう。一の悲しそうな顔だって、見たくない。


「ありがとう」
《え?》
「バレー、教えてくれて」


久しぶりに彼に本音を言えた気がした。
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