22話

バレーボールという競技。それは、幼馴染みが私に教えた競技。勿論それは、人に当たるし怪我もする。そんなこと知ってる。
だからと言って、こうやって怪我をする人を見たのは初めてだった。


「鉄朗!!!」


「誰か、先生呼んで来い!早くしろ!部活は中断だ!」


「タオル下さい!早く!」


たまたまベンチ付近にたっていた鉄朗にバレーボールが当たった。それは、かなりの勢いで行き先を失ったボールだ。体勢を崩して、捻挫なんてそれだけだったら良かったのに、ベンチの角に頭を打ったのだ。
鉄朗に意識はなく、血が出ている。


「鉄朗!鉄朗!!」


「お、おい、それ……平気かよ」


「さっき打ったやつ誰だよ」


「お、俺じゃねぇからな」


「俺でもねぇよ!」


「橘じゃねぇか?」


「はぁ!?ちげぇって!」


後ろで野次馬のように騒ぐ先輩たちをひと睨みして鉄朗の頭にタオルを当てる。涙で視界が歪む。このまま目覚めなかったらどうしようなんて、あるはずもないことばかり考えて涙が溢れた。


「そんなこと言ってる場合だったら体育館を片付けてください!」


部活で初めて怒鳴った。いつも何言われようがされようが絶対に怒鳴らなかった夜久が、だ。勿論野次の後ろで1年生は散乱したバレーボールを片付けていた。


「失礼します。怪我人はどこですか?」


海が呼んできてくれた保健医に鉄朗を見てもらう。救急車も呼ばれてそこに乗り込めたのは先生と部長だけ。私は乗せてもらえなかった。
とても鉄朗の容態が気になった。しかし、そんなこと言っていたって何にもならないのだから、とボール拾いを手伝って部活終了して家に帰ったのだった。


「もしもし、夜久?」


《おー、どうした?》


「鉄朗、平気かな……」


《あぁ、そのことか。俺も気になるけど、ケロッとして明日来そうだけどな》


「だといいなぁ」


《お前、黒尾のこと好きよなぁ》


「は、はぁ!!?」


ベッドから上半身を思い切り上げ、落としかけた電話を掴み直した。この電話の向こうにいる人は何を言っているのだろうか。不思議でたまらない。
好きと言う単語に反応した顔を覚ますように顔の前で手をパタパタと振る。


《なんだよ、いきなり大きな声出すなって》


「わ、わわわ、私は友達として好きなんだからねっ!?わかってる!?」


《え、そのつもりで言ったんだけど……違うの?》


私がバカだったらしい。何にも心配しなくて良かった。
ていうか、何で私は鉄朗が好きとか言われて焦っているんだろう。好きでもないのに。異性として意識したことなんて、ない、と思う。そもそも、最近になって及川のことが好きだとかきちんと自覚して整理をしたのに。尻軽女でもないのだからそんな訳が無い。と思いたい。


《でも、本当に無事だといいな。もう時間も時間だし切るぞ?いいか?》


「あ、ごめん!遅くまで話しちゃって……」


《いや、俺も心配だったからいいよ。心配心配ってお互いに言い合ったって意味ないけどな》


「あ、私は少しだけスカッとしたから意味あるよ。だからありがとう」


《そ?ならいいけどさ。おやすみ。また明日学校では》


「うん。鉄朗、来てるといいなぁ」


《ま、すぐ来るだろ。じゃな》


「おやすみ」


プッ、と切れた電話を放り投げて再びベッドに沈む。薄暗い私の部屋はおばあちゃんの隣。畳にベッドがあるという不思議な感覚だ。四本足のベッドじゃないだけましか。四角い箱みたいなそのベッドは案外広くて私くらいの身長ならもう一人横に寝れそうだ。って、ちびじゃないけれど。
でも、鉄朗にも言われたけど身長が実は伸びてたりする。入学してすぐだから、何もわからないが。多分中学卒業した時より明らかに伸びているだろう。


「ふぁ……」


あくびが自然と出て涙目になる。目をこすり時計を見れば風呂に入らなくてはならない時間帯になっていた。鉄朗をいくら心配していても鉄朗が帰ってくるわけでもない。さっさと風呂に入って寝ようか。明日にならなくてはわからないのだから。


次の日、結局鉄朗は来てなくて三日ほど休むとのことだった。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -