19話

梨花からの連絡に少しだけ驚いて鉄朗と二人で笑いあったのがついさっきのことで記憶に新しい。


「ねぇねぇ、黒尾くん」


「んー?」


だが、街に出て少し派手目な女子の集団に出くわした瞬間私だけはじき飛ばされ、鉄朗の周りには他クラスのその派手め女子が群が……集まっていたのだった。
ここで問題になるのは私自身がどうしたらいいかと言うこと。ただ、それだけなのだが。私からすれば結構な問題である。この状況下において、鉄朗がまず携帯を取り出し、私に連絡することは不可能だ。きっと携帯を取り出した瞬間、派手め女子にアドレスやらなんやらを交換しようと迫られるからだ。
そして次に、私が鉄朗、と呼べばそれで済む。しかし、その派手め女子集団に目をつけられるだろう。その集団内に突進していっても然り。


「逃げるが勝ちっていうよね」


鉄朗に連絡してとりあえず、その集団から離れた。暑苦しい。まだ暑くはないけれども。春なんだから涼しい。まだ頬を撫でる風も少しばかり冷たいのだから。
これからどうしようか。ホテルに帰っても部屋には夜久と梨花がいるだろう。
とりあえずでも、帰って昨日のラウンジにいようかな。そう思って方向を変えて歩き出したのだった。


「女子怖い」


自分も女子だけども。それでも男勝りな性格してると思ってるので、あんなにガッツく事なんてなかなかないのだから。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「岩ちゃん」


「何だよ」


「俺、何で嫌われたのかなぁ」


机に突っ伏して伸びている及川を一瞥して窓の外にめを向ける岩泉。岩泉自身、その理由を知っているし何度も二人の為を思って言おうと思った。しかし、言えなかったのだ。#name1#が牽制したから。


「知るかよ」


「俺、ずぅっと一緒だと思ってた」


「……んなもん」


―俺もだよ。


その言葉に少しだけ及川の顔が上がる。窓に映った彼を見て、岩泉は溜め息を漏らす。岩泉にとって及川の反応なんてどうでも良かった。思う事は一緒なのだとただそれだけを思った。


「俺、離れたくなかったよ。岩ちゃん」


「……ああ」


「バレーボール、嫌いになっちゃったかな?」


「それは、ねぇだろ。どっかで何かしら続けてる。多分な」


多分とつけたのはきっと及川に言ったら及川のテンションがこの上なく下がる事を岩泉はわかっていたからこそ、言わなかったのだろう。
#name1#が黒尾と夜久と三人で肩を組んで楽しそうにしている姿を写真でとって岩泉にだけ送ってきたのだ。それは昔、一度だけ自分たち幼馴染みと撮ったプリクラのような。そんな写真。
そしてそのプリクラに書かれた文字にはチームメイト!と書かれており画面をスクロールすればバレー部のマネージャーになったと書かれていた。それを見て少しだけ笑をこぼしたのが岩泉が#name1#についての最近の記憶である。
しかし、それは彼女が男子バレーボール部に入ったことを意味しており及川がそれを快く思わないと思ったのだ。


「会いてぇなー……」


及川の言葉は岩泉にしか聞こえない。けっして、その言葉を当人に言うつもりもないだろう。


「岩ちゃん」


「何だよ。静かにしろよ」


プリントを忘れたと言って職員室に教師が元持っていったせいで、教室内は騒がしく及川と、岩泉が話していてもそんなに環境が変わるわけではないが岩泉は窓の外の空を見ていたかった。#name1#もこの空を見ているか、なんてロマンチストのような考えを持ちながら。


「俺さー」


「……」


もう及川は岩泉の反応なんて大して気にしていなかった。話を受け流してくれても良かった。自分の声が岩泉に届いていれば及川はそれで良かったのだ。


「ずっと、#name2#を近くに置いときたかったんだ。離れていって欲しくなくて。俺は、#name2#が誰よりも大切だったんだよ」


―すっごい今更だけどさー


抜けたその声に岩泉は微かにイラついた。何故その言葉を本人に言ってやらなかったのだと。きっと、及川がその言葉を言ってくれていれば自分たちの大切な幼馴染みは少なくともこの青葉城西高校に入学していた。そして、変わらない笑顔で笑っていてくれた。


「バカ野郎」


「岩ちゃんなんか言った?」


「言ってねぇよ」


会話が途切れた時、丁度教師が息を切らして帰ってきた。しっとり汗に濡れた額をハンカチで拭う老人の一声では騒がしい教室が静まることはなかった。
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