18話
休憩時間、またの名をお昼休みという。
ゴロゴロとする中机の上に置いてある携帯が揺れた。手に取ると緑のアイコンの上に2の文字。アプリを開き確認すれば黒尾鉄朗から。
〈外、行かね?そっちに夜久やったから〉
〈出ていいみたいだし。エントランスホールのソファにいる〉
その二つ。なんだ、鉄朗もやるときはやるんだ。夜久のこと梨花が気にしてるって気づいていて、しかも夜久もその気が少しあるかも、みたいな感じだったしからね。結構分かり易い程度に。
「梨花、私ちょっと外行ってくるね」
「あ、じゃあ私も」
「ううん、すぐ帰ってくるし梨花はまっててよ」
「ええ〜!あ、わかった!黒尾くんでしょ?」
「へぁ!?」
「ふふ、その反応当たり?」
「あ、えええと、いっ、行ってくる!」
何だか言い当てられて凄く恥ずかしい。別にやましい事とかなんにもないのに、すごく恥ずかしい。あのトサカヘッドに会いにいくのに何で顔を熱くしてるんだ、私は。
携帯をパーカーのポケットに突っ込んで早足でエレベーターに乗った。
〈まだ?〉
〈今3階。もうすぐ2階〉
〈エレベーター?〉
〈うん〉
壁に凭れて携帯をいじる。鉄朗からのメッセージに返信していく。会話を本当にしているみたいで凄く楽しいし、楽チン。こんなアプリを開発されては使わなくてはもったいないだろう。
このアプリを開らく度に黒尾鉄朗が一番上にあるのが見えて、ドキドキする。だって、こう、及川とか一以外の男とは連絡なんて取らないし。夜久も最近入れたけど鉄朗の半分も話さない。席隣だから、かな。
〈着くよ。今エレベーター降り〉
扉が開いて携帯に文字を打ち込みながら出ようとした瞬間誰かとぶつかる。
「っ!?す、すみませっ」
「やっと来た遅い」
「て、鉄朗!?び、びっくりした!」
ぶつかってしまったのは今まで携帯のアプリ上で会話していた鉄朗。彼の胸に飛び込むような形になってしまってカッ、と頬が熱くなった。
「おう、ならドッキリ成功」
「もう、止めてよ」
「お前、意外とビビリだろ」
「 そんなこと、ないよ」
「今度、お化け屋敷でも行くか?」
「行くわけないでしょっ」
鉄朗から離れて隣を歩く。
案外優しいもので、歩幅を私に合わせてくれているらしい。いや、今までも及川とか一もゆっくり歩いてくれてたんだなぁ、と実感してたけども。だって、隣を通り過ぎていく男子生徒は鉄朗よりも身長が小さくて、でも普通に歩いているはずなのに楽々と私たちを追い越していく。
「ねぇ」
「んー?」
「意外とこの学校緩いよね」
「ああ、確かに。厳しいところは厳しいけど極端に緩いところもある。まぁ、そこがいいんだけど」
本当にスカート丈はもっと長くうんたらかんたら、なんて何も言わないくせして、ネクタイは?校章は?と聞くのだから基準が良く分からない。
それに、外に出ていい宿研なんてそんなのないだろう。何かあった時に責任が取れないからだとかあるだろうに。
「ホント、放任主義な学校というか」
「けど、行き先とか何人で行くのかとか、何時に帰ってくるんだとか小学生の親みたいに聞いてきたし、ここ迄って決まってるしそうでもねぇかもな」
何て頭の上で腕組みをしながら歩く彼。そしてまぁ、街中の女性からの視線が痛いこと痛いこと。結構田舎なここはこういう鉄朗みたいな男がいないのだろう。さすがイケメン。ただ、突き刺さるような視線だけはやめて欲しいものだが。
「なーなー」
「はいはい」
「俺さ、根っからのバレー選手なんだわ」
「はぁ」
「及川クンって強いの?」
「……努力型のセッター。決して天才には及ばないのに、彼は天才と言われるまでのセッターになった」
今思い出せば、中学の時なんて及川のことばっかり見てた。
「きっと、私が住んでた県では一番のセッターだよ」
「ふーん、じゃあ、強いわけだ」
「まぁまぁ?」
「ぶはっ、なんで疑問系?」
「その他人(ヒト)の強さなんて他人(タニン)が測れるわけがないよ」
ポツリと出たその言葉はかつて私の父親が言っていた言葉である。海外出張ということでなかなか帰って来ないが、父はバスケットボールプレイヤーで今、何処かで活躍してることだろう。
「お前、そんなこと考えてんのな」
「え、何、どういうこと?」
「いや、馬鹿そうに見えて案外周り見てんじゃん」
「はい?」
「てかお前さー、デカくなった?」
その言葉に喜んで鉄朗に抱きつきそうになったのは言うまでもない。