17話
「あのさ、鉄朗っ」
「んー?」
「い、意外と辛いよね」
「 おう」
汗をかきながら、何をしているのか理解できないが、アトラクションを登ったり降りたり滑ったりしているわけだが。何にしろ、左手が鉄朗の右手と繋がっているものだから動きにく言ったらありゃしない。これはひどい。
「ねぇ、これ何のためにしてるんだろう?絆を深めよう的な?」
「さぁ?何組かは恋とかに発展しそうなイベントだな」
「確かに」
苦笑いしながら伸ばされた鉄朗の手を取る。汗ばんだ手が妙に落ち着く。引っ張りあげられてようやく見えたのはアトラクションの終点というべき場所。私達はどの他のペアよりも早かったようで前には誰もいない。
「てか、早いね」
「おう。#name2#お前運動神経いいよな」
「まぁね。体動かすのは好きだし」
緩やかな道を歩いて山内先生が持っている紙に名前を記入する。もちろん、一番上の欄に書かれた名前。少しだけ誇らしい。
「早かったですねー、息ぴったりだったんですか?」
「まぁまぁだよな?」
「うん。でも、疲れました」
「そこら変でゴロゴロしててね。多分もう少ししたら団体様が来るから!」
団体様とはおそらく後ろの方にいるペアたちのことを指しているのだろう。ああ、美人な先生なのに彼氏がいないのが勿体無い。
「優子ちゃんって美人だよな」
「何、その親しげな言い方」
「ん?クラスの男子は大概ちゃん付で呼んでんぞ。知らなかったのか?夜久はちゃんと山内先生って呼んでるけどな」
「それが普通だよ」
鉄朗の背中を叩いて、ベンチまで歩く。木で作られた自然あふれるベンチに寝転がると、ちょうど木の下だったから木陰で気持ちが良かった。ただ少しだけ眩しかったから目を細めたけれど。
「一人で陣どんな。ちょっと開けてくれ」
「仕方ないなぁ」
気だるげに動いていただろう。ゆっくりゆっくり起き上がりベンチの本来の使い方をする。ちゃんと座ると膝の上に来た衝撃。下を向くとそこにはツンツンと立っている寝ぐせ頭。
「ッッ!」
「え、って!」
驚いて勢い良く立ち上がると地面に落下する鉄朗の頭。相当痛かったのか睨んできたが、睨みたいのはこっちだ。いきなり頭を膝に乗せてきた鉄朗が悪い。
「何で立つんだよ」
「せめて一言いってよね。やらせないけど」
「はぁ?」
「そう言う事は好きな子にしてください」
ああもう、こういう無粋なところ苦手だ。ベンチからずり落ちた鉄朗は地面に手をつき上体を起こす。打った頭がやはり痛かったらしく摩っている。たんこぶが出来たと言っていたので少しばかり罪悪感が生まれたが、元はと言えば鉄朗が悪いのだから、私は関係ない。
「団体様のご到着ね」
山内先生のその言葉に二人して目を向ければ夜久と梨花の姿を見つけた。あちらも私たちを見つけたのか梨花が笑顔で右手で手を振ってくれる。梨花が手を振ると自然と夜久の手が持ち上がり手が振られた。繋がっているのだから当たり前だ。
「あはは、見てよ、鉄朗」
「おー、仲良くしてんじゃん」
「だね」
ベンチから立ち上がり鉄朗に手を差し延べる。彼の手を取って両手で引っ張り立たせた。仲良くしている夜久と梨花の元に向かう。
案外仲良くしてそうでよかった。少し不安だったのだ。梨花、人見知りだし。でもまぁ、鉄朗と夜久とは結構話してたし関係ないか。
「夜久くんごめんね、私のせいで遅くなっちゃって」
「いや、気にすんなって!楽しかったしそれでいいじゃん」
「そうかな?」
「そうだって」
どうやらかなり仲良くなったようだ。
「よ!」
「お、んだよ、お前ら早いんだよ」
「まぁな」
楽しそうに話す鉄朗と夜久。手についていた縄を取りながら鉄朗と話す夜久。梨花も縄をとろうと手を伸ばすがいい、と夜久に一言いわれ遠慮した。その間、ずっとモジモジしていた梨花。もしかしたら夜久のことが好きなのかな、なんて思ってみるが見当違いだったら恥ずかしいから本人には言わないことにしようかな。陰ながら応援してみようか。違ったら恥ずかしいけれども。