15話




「また負けた」


「#name2#ちゃん、そんなに気を落とさなくても」


「だって!よ、四回とも最下位なんてッ」


恥ずかしくて顔を手で覆う。しかも一位が何で梨花なんだろう。強いすぎる、この子。大体2位3位争うのが鉄朗と夜久。でも、1位が梨花、鉄朗が2位で、夜久が3位、私が最下位というのが普通になってきている。
その後、トランプで婆抜きをしても負けた。ポーカーフェイスだが、カード運が悪すぎた。そしてその婆抜きでも1位は相変わらず梨花。ジジ抜きも七並べも、1位は梨花。最下位は私。


「ストレート〜。まぁまぁだな」


「ロイヤルストレートフラッシュ、なんだけど」


「うお、朝比奈すごっ。俺はスリーペア」


「や、夜久の裏切り者!ツーペアだよ。また負けた」


嫌になってきた頃に、ポーカー。再び梨花が1位。私は最下位。そこから追い討ちで大富豪。結局夜久と争って負けた。


「お前、大富豪で、その弱さって」


「夜久、何も言わないでよ」


「ぶふっ!おま、カード運悪すぎ」


「おいっ、黒尾」


流石にここまで来ると私だって泣けてくる。何と言うか、意外と私は弱虫だったと昔を思い出す。
目頭が熱くなって視界がぼやける。ああ、嫌だ。ただ負けているだけなのにどうしてこうも涙が出てくるのだろうか。


「え、#name1#?」


「み、見るな夜久のバカっ」


「お、俺ぇ?」


近くにあったクッションを投げると夜久の顔に直撃。それから、ドアに向かって一直線。ドアをあけて廊下に出ると静まり返っていた。それに薄暗い。少し寒くて体を震わし、歩く。寒い割には顔が熱い。それに、涙が伝うのがわかる。


*****
―no side―


「黒尾、今のはお前が悪いだろ」


「ああー、やっぱそうだよな……」


「言わなくていいって言ったことお前が言うからあいつ泣いたじゃん」


「朝比奈、追いかけてきてくれ。頼む」


額に手を当て顔をしかめている黒尾はこの中にいる唯一の女友達である朝比奈に助けを求めるが、彼女は首を振り#name1#と同じように抱きしめていたクッションを黒尾に投げつける。夜久のように当たりはしなかったものの驚いたようだった。


「黒尾くん!女心ちょっとは理解してよね!馬鹿。ちゃんと連れ帰ってよ。私部屋にいるから」


顔を真っ赤にして怒る朝比奈は勢い良くドアを開け閉めた。その音に二人とも顔を合わせてため息をついた。男から見れば女心って何だよ?と未知のものなのに理解しろと言うのだ。無理な話だろう。


「でも俺も黒尾が悪いと思う。謝ってこいよな。俺片付けしとくから」


「 ぉう 」


「ほら、行ってこい!」


立ち上がった黒尾の背中を渾身の力を込めて叩く。小さく黒尾から悲鳴が上がったが、数秒後。礼を言われて一人でほくそ笑んだ夜久だった。


*****


まだ、就寝時間まで二十分弱あるからだろうか。少しだけ、夜景を見に来ている生徒がいた。中にはもう既にカップルになっている生徒もいるのか、それとも馬があって一緒にいるのかは定かではないが男女の組も数名。
そんな生徒を避け、ソファに座った。体育座りをして膝に顔を埋める。
時間がどんどんすぎまた一人、また一人、と自分の部屋に帰っていく。


「綺麗」


涙も目の腫れも引き、ソファから立ち上がって大きなガラスに手を添える。
薄暗いラウンジだからだろうか。より綺麗に見えた気がした。


「おい!」


「!……鉄朗」


「よかった、どっか行ったのかと、思ったッ」


膝に手を置いて呼吸を整える鉄朗の姿は幼馴染みのあの男と重なって嫌だった。試合を終えて勝った時にわざわざ家まで報告し来たあの男。手を伸ばしてきた鉄朗のその長い手をよける。その時の鉄朗の顔は目を見開いていて、その顔をさせているのは私なのだと理解した時には後悔の念が自分を襲った。


「ち、違う!今のはそのっ鉄朗のせいじゃなくて」


「悪かった」


「え?」


ツンツンした頭を勢い良く下げるものだから驚いて一歩後ずさる。


「いや、あの、不快になること言った、から」


「そんなことか。いいよ、気にしてないし」


少しは気にしてたけど、もう過ぎたことだし。そんな、頭を下げられるほど悪いことは鉄朗、言ってないと思う。私の今の行動が誤解を生んだ。


「私もごめん。その、手」


「あー、いや。気にすんな」


「重なって、嫌いな奴に。失礼なことした!ごめん」


「お前の前にいんのは誰だよ」


「え?く、黒尾鉄朗、です」


わしゃわしゃと頭に伸びてきたその手。今度はよけず、受け止める。私の言葉に満足したのか、ニヤリと笑いながらよし!とか言うものだからこちらも自然に笑った。
結局お互い様で、顔を見合わせて笑っていた。夜景を見てまったりしていれば忘れていた時間。田中先生に見つかって怒られて。帰る頃には、梨花はベッドの上で熟睡。暗闇の中携帯の明かりで進み、音を必死で立てないように神経を研ぎ澄ませていたのは私も、鉄朗も同じだった。
帰った頃には夜久もぐっすり寝ていたらしい。
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