13話
バスから降りて宿泊所のホールにクラスごと並び点呼をとっていく。これから開会式の準備をすると、栞に書いあったはずだ。面倒くさがりなので、ちゃんと栞は読んでない。ザッと読んだ。こういうのは思うにちゃんと読まなきゃいけないのだろうが、面倒くさい。
「#name2#ちゃん?」
「んー?何、梨花」
「荷物おいたらあっち集合だって」
わざわざ教えてくれた彼女の優しさに感謝しながら礼を言い、荷物を自分のクラスのところに固めて置いておく。それから、待っていてくれていた梨花のところに行き一緒に集合場所に行く。大半の人が集まっており、みんな楽しそうに会話をしている。
「集まったか?」
声の大きい田中先生がマイクを使った。それがかなりの音量だったので驚いた。肩を揺らした私を見て梨花が、笑うものだから少し恥ずかしい。笑わないでと言えばごめんと笑いながら返ってくるモノだから眉間にしわがよっていたようだ。梨花の手が眉間に伸びてそこを押す。
「お、いたいた」
「鉄朗。それに夜久も。動いて平気?」
田中先生に怒られないか心配だ。あの先生は正座させてそれに膝に自分たちの持ってきた荷物を置かれそうだ。恐ろしい。考えただけでも冷や汗が流れる。
「なぁ、朝比奈顔色悪くないか?」
「え?私?平気だよ」
「梨花、しんどくない?」
確かに見てみれば少しだけ顔が青白い。
夜久って、人の事をよく見てくれていると思う。面倒見もいいし、優しいし気が利く。気配り上手さんなのだ。なんというか、お母さん気質なのだ。男の子なのがもったいない。これでいて裁縫とかできて、ソーイングセット持ってたら吃驚だ。
「うーん、バスで酔ったのかな?」
「しんどくないならいいけど、心配だよ。先生に言いに行こう?」
「ええー、平気だよ。多分。ちょっと確かにさっきから気持ち悪かったけど」
話し込みすぎたのだろう。気づいた時には田中先生から怒声が飛んできた。それでも、梨花は連れて行かなくてはと思い立ち上がり先生の元に連れていった。すみませんと頭を下げ、自分の席に戻る。あんなに怒らなくともよいのに。そう思うが自分がいざその立場にたってみると怒りたくもなるのだ。そりゃあ、話しているのに聞いてもらえないのだから当たり前のことを田中先生はした。仕方が無い。こちらにも非はある。
「悪い、でかい声出しすぎたな」
「鉄朗のせいじゃないよ」
そうしてもう怒られたくなかったのか鉄朗も夜久も私も静かに先生の話を聞くことにした。
話を聞き終え、とりあえずお昼ご飯。バイキング式で男の子達は肉の争奪戦を始めている。大概女子はサラダや魚、パンなどで済むのでそんなことが起きることはないが、生憎私はサラダが嫌いなのだ。というか、野菜全般が受け付けないので、取る物といえば魚と子供が食べそうなトマトとブロッコリーキュウリ。しかも、その上にはゴマドレッシングがごってり乗っている。
「うわ、#name2#何それ」
「え、お昼ご飯」
「そういう意味じゃなくて!野菜嫌いなの?」
「野菜は人類の敵だと思うな」
その時の顔は友人のカメラに収められている。どうやらかなり真面目な顔をしてそう言ったそうだ。いや、私が写真を見る限り、真面目というか目があらぬ方向を向き据わっていたのだが。それに、人の顔を写真に収めて笑いものにするのはどうかと思う。
「梨花、おかえり」
「ただいま。ねぇ、本当に食べるの?それ」
「うん。食べるよ」
「ええー高カロリーだよ」
「家でもこうだから。こうしなきゃ無理」
女子の輪って本当に楽しいなぁ。しみじみ思うけれど。こういうの好きだよ。いつもは本当に及川が邪魔してくれたからね。なんであの男と10年ちょっと幼馴染みやってこれたのかが不思議でたまらない。
「あ、ねえねえ。黒尾くんと仲いいよねー#name2#」
「え?そう?普通でしょう」
うえ、キュウリ青臭い。
「うん。入学早々夜久くんとも仲良くなってたし!」
これが所謂ガールズトークと言うものなのだろうか。したことねぇからわからない。もしそうならば嬉しい。この宿研で女子から沢山学べる。しかも、友達になれるという嬉しいオプション付き。
今までのことが嘘みたいだ。
「いいよねー、二人ともイケメンだし」
「それはわかる。ねぇ、梨花」
「え、私に聞かれても……」
友達に同意して梨花に振ればあたふたと手を動かして苦笑いをする。
「お、マジじゃん」
「鉄朗、どうかした?」
「お前野菜食えないとかウケる」
ププッと笑う鉄朗の腹に肘を押し込む。カエルのように声を発したあとに私の頭に手を伸ばす。その手を見て女子からは好奇の眼差しを受けるが生憎この手は私の頭をガッチリ掴むために伸ばされただけで、撫でるという優しい行為のものではない。
「イタイイタイイタイ!」
「俺も、痛いって」
「お前ら、やめなさい」
「「夜久!」」「だって、鉄朗が」「#name2#が」「私は」「俺は」「「悪くない!」」
息がぴったりだと、その場にいた者に笑われてしまったのだった。鉄朗も笑い初めてそれにつられて、私も笑った。どうやら私は表情筋が緩んだようだ。よく笑う。
「鉄朗、人には好き嫌いがあるんだよ」
「おう、悪かったな。でも、お前何でも食いそうじゃん」
「え、そう?野菜は受け付けないよ。あれは私の最大の敵だから」
「 #name2#ってたまに馬鹿だよな」
くしゃりと頭をなでられた。それを見てひやかしの言葉が飛んできたのは言うまでもない。