12話



「いってきまーす」


覇気のない声でばあちゃんに向かって言えば小さな声で行ってらっしゃいと声が聞こえた。
さて、私が一番苦手とするのは宿泊研修だ。それが本日。別に人間関係が嫌いだとか面倒くさいとかではない。ただ、トラウマがあるだけだ。
主に及川のせいである。近寄るなと言っておいたのにもかかわらず、近寄ってきて、研修中私と一にベッタリなものだから勿論、私には女の子の友達がその年、なかなかできなかった。
そんなこともあり、宿泊研修というのはあまり男と一緒にいてはいけないものだと理解はしている。昨日も、鉄朗にそういう経緯があったから、宿泊研修中はあまり近寄るなとは言っておいたが。どうするかは鉄朗次第だ。


「よう」
「げっ」
「げって酷くね?俺傷ついちゃう」
「うるさい」


鉄朗は多分絶対頼んだ通りにしてくれないタイプの人間だ。どちらかというと楽しむタイプだろう。勿論、相手の反応を見て爆笑するという、タチの悪い。ため息をつくと夜久まで隣に来て話しだしたものだから結局、中学と変わらない。ただ、唯一の救いは二人がイケメンを振り撒かないことだ。及川は酷かった。もう自分がイケメンだと自覚しているからか、それともファンサービスが過ぎるのか、どちらかはわからなかったが、とりあえずイケメンを振り撒いていた。


「はぁ」
「ん?どうかしたのか?体調悪いなら先生に」
「平気、心配しないで」


及川のことを思い出して溜息が出ただけだから、なんて及川のことを知らない夜久に言っても首を傾げられるだけなんだろうが。鉄朗は友達と話していて、何やら楽しそうだ。
私の視線に気づいたのか、目が合ってしまった。そらす前に手をふられる。振替さないといけない気がして振返すと、降った本人が目を見開き驚いていた。その顔を見た夜久が隣で爆笑していたりする。まぁ、確かに少し面白かったかもしれない。


「来たやつはバス乗れー!」


でた、隣のクラスの担任、田中先生。ジャージが相変わらず似合わない鬼のようなオッサンである。隣のクラスの同じ部活の海信行くんこと海が言うにはいい先生だそうだ。少し怖くなった父親みたいな。私の父親はとっても優しく温厚なので、あのようにゴリマッチョさんになった姿を想像できないので、その説明では良く分からなかったが。


「座席表通りに座ってね。変更はなしよ。ただ、バス酔いやすい人は薬飲んでも無理だったら私か、周りの人に言ってね」


山内先生。私のクラスの担任で、とっても優しい女性です。ただ、一日をジャージで過ごす、ぐうたら女だという噂を聞いたことがある。美人なのに結婚おろか、彼氏ができないのは、生活感が伺えないからだろうか。


「よろしくね、#name1#さん」


隣になったのはあの、自己紹介の時に震えながらも自己紹介をすることができた笑窪が素敵な朝比奈梨花ちゃんだ。


「そんな他人行儀に呼ばないでいいよ、私も梨花って呼ぶし」
「本当に?じゃあ、#name2#ちゃんでいい?」
「構わないよ、ねぇねぇあのさ――」


出発時間になり、バスが発進しても私たち好きなアーティストの話だとか、昨晩やっていた連続ドラマの犯人の話だとかで随分盛り上がった。女の子とこんなに打ち解けたのはすごく久しぶりな気がした。
周りにはいつも及川がいたし、こっちに引っ越してきてからは鉄朗とのやり取りばかり。女の子なんて周りにもいなかったものだから話に花が咲いた。


「うんうん、かっこよかったよね、あの助けるシーン」
「いいところで終わらせるよね、続き気になる」
「犯人、誰なんだろう?」
「あ、梨花ちゃん、次回予告見てない派?」
「次回予告に犯人の後ろ姿とか映ってたりするから嫌なの」


同じ意見に驚きながらドラマの話をして、それから気がつくと周りの席の子達も巻き込んで話をしていた。女子に囲まれるのってこういう感覚なのかと鈍っていた感覚が戻ってきたのだった。といしゆうか、まだ鉄朗絡みのことで何も言われないから、もしかしたら平気なのかもしれない。
みんなと話してみてわかったことは、私のクラスのみんなはとってもフレンドリーでいい人たちばかりだということだった。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -