11話
「夜久、バレーの見学?」
「おう。お前は?女バレ見んの?」
「いや、私は」
「#name2#」
夜久と話していると後ろから肩を叩かれ名前を呼ばれた。そして、そのまま振り向くと頬に刺さった鉄朗の指。鉄朗の顔を見れば楽しそうに笑っていた。
「鉄朗っ」
「ククク」
叩こうにも頭上には私は届かないのだ。どうしようもない。それがすごくイラつく。身長が高いって言うだけで攻撃を受けないのはずるいと思う。それは及川も一もだった。昔はそりゃ同じ位の身長だった。のに関わらず、彼らはどんどん大きくなり、遂には頭に手が届かなくなってしまうほど。
「なぁ、女バレ入んの?」
「…いや、入らないよ」
「ふーん、じゃあいいな」
「は?え?ちょっ離っ」
腕を捕まれ、終いには私の机にかかっていたスクールバッグを手に取ると胡散臭い、と研磨に言われていた笑を私に向けて言い放った。
「マネージャー決定な」
ああ、別に決まっていたじゃないか。私はこの、黒尾鉄朗に、ついていくとそう決めてこの学校に入ったのだから。彼の笑顔が、言葉が、私を動かした。全国へ連れて行ってもらおう。私はベンチから、みんなを見守る。
「夜久!夜久も行こう」
「あ、ああ」
さて、入部だ入部。先輩が最低でも何であろうが鉄朗の代まで持ってって優勝して、それで私は鉄朗たちと、全国に行くんだ。
そう思うと心が軽くなった。何だ、私、もうコートに立たなくてもいい、と。でも反面悲しかった。コートに立てないんだ、と。それでもよかった。私の分、その分長く鉄朗や夜久が立っていてくれたら。幸せなんだ。
「久々に来た」
「え?」
「バレーをしている体育館に。久々」
ああ、ボールに触りたくて、でも触りたくなくて。どっちつかずのこの感情に苛立つ。転がってきたそのボールを手に取り見上げると大きな人。目に入ったのは音駒と書かれたユニフォーム。赤いそれはとても目立っていてカッコ良かった。
「見学?」
「「いえ、入部っす」」
夜久と鉄朗が同時に答えた瞬間だった。先輩の目は私を見て同じ?と聞いてくる。鉄朗も夜久も入るのだ。答えは決まっている。
「はい、私もです」
さて、怖がっている暇なんてどこにもない。私はコートに立たない分、たくさんの方々を支えていかなくてはいけない。たくさんの、知らない人。先輩、同い年の子達。レギュラーでも補欠でもみんなを支えていかなきゃいけない。それが、マネージャーという仕事だと思う。
「あの、すみません」
「ん?」
「マネージャーって基本何をするんですか」
そう、支えようにも私にとってマネージャーって何だろう、そんな疑問だらけのもの。私は選手だったし、まず、女子だったからマネージャーを募集しておらずマネージャーというものがいなかった。
「未経験者?」
「はい、迷惑お掛けします」
「いや、気にすんな。まぁ、雑務。簡単に言ったらな」
雑務。その言い方はあんまりだと思うが、そういうものだろう。
説明してもらった内容は至って簡単そうで私でもできそうだった。それに安心して徹朗や夜久の所に行くとサーブを必死でとっていた。
「……」
二人とも楽しそうで、夜久に関してはセッターのいる位置にほぼ返せているのがすごかった。徹朗も夜久まではいかないが必死でボールをとっている。
「すごい」
自然とこぼれたその言葉に気づかず、ただ私はひたすら二人を見ていた。