8話



「よっ」
「よ?」
「ぶふっなんで疑問系?」


手を挙げてそう言った黒尾に同じ言葉で返した。何か、また大きくなっている気がするのは気のせいだろうか。
私なんてもうあまり伸びないだろうに。


「#name2#、縮んだ?」
「嫌味?」
「いや?リアルに」
「顔ニヤニヤしてるわよ」


説得力のない黒尾の背中を叩く。そんなことをしているうちに時間は過ぎていく。しかも永遠にこんなことが続くので、少し中断。取り敢えず孤爪くんに会ってみたくて黒尾の横について歩く。どうやら私たちは家も近いようだった。


「時間的にもう着くよね」
「ん、ここ」


ばあちゃん家とは違って普通の洋風の今どこにでもある家。というか、ばあちゃん家横に長いからな。こんなふうに二階建てじゃない。私の宮城の家も二階建てだった。


「孤爪くん、いる?」
「いるよ。ほら、入れー」
「お、お邪魔しまーす」
「どうぞ」


こう言ってもなんだが今まで男の家に上がったのなんてかなりある。しかしそれは及川と一の家オンリーだ。だから、こうやって会って間もない、こともないがそんな男の家に上がるのなんて初めてのことだった。


「何か持ってくから部屋先行ってろ。階段上がって右の部屋」
「わかった」


階段を上がって、黒尾の部屋だろう扉を控え目にノックする。中からは小さい物音がしてドアノブが動いた。中から覗いたその顔は黒尾が送ってくれた孤爪くんのシルエットと同じだった。


「う、」
「う?」
「う、わぁ……!」
「え?」


扉を閉められ中に引っ込んでいった孤爪くん。うん、やっぱり可愛い。男の子って感じがする。もう一とか男だもん。おっちゃんくさい。でもまあ、及川の第二の母親だと言っても他言ではないほど人柄のいい人である。変な意味の男ではない。及川は男だ。嫌な意味で。女の子好きだし、ヘラヘラしててちゃらんぽらんだし。この子は男の子だ。希に見る男の子や。


「孤爪くん?あ、あの、開けてくれると、嬉しいんだけど」


ドアノブ、回らない。


「だ、誰」
「黒尾の、えっと、何だろう?」
「不法侵入で訴えるよ」


何なんだろう、この攻防戦。


「研磨、#name2#、何してんだ」


黒尾が持っていたのは麦茶らしきものでそれを私に手渡してドアを開けようとドアノブを回す。案外すんなり開いたその扉にホッと息をつき中に入った。思えば黒尾の両親さんにお邪魔しますと伝えていない。何てことだ。


「あの、お母様は」
「ん、ああ、今いねぇよ。買い物行ってる。そのうち帰ってくるだろ」


お父さんはどう考えても今は仕事中でいないだろう。と思うにこの家は今は三人だけか。うん、私も今度から危機感というものを持とう。


「そっ。また後で挨拶するよ。こんにちは、孤爪くん」


孤爪くんを見ると顔ごとそらされて彼の目線の先は携帯へ。終いには体ごと背けられ私に背を向け、携帯に没頭し始めた。


「私、嫌われてる?」
「いや、違うと思う。研磨」
「女の子だって、聞いてないんだけど」


顔だけこちらを向けて私を見るその瞳は怒っているように見えた。いまいち状況がわからず取り敢えず黒尾と孤爪くんのやり取りを静かに見る。聞いている話から思うに、黒尾が悪いと思う。私の性別も何も伝えずただ、友人だとしか伝えていなかったらしい。それは驚くだろう。孤爪くんは孤爪くんで扉を開けた時に出たあの声を気にしているらしい。私は気にしていないというのに。わぁ、と言ったことが彼自身少し許せなかったらしい。


「あ、」
「何?」
「そのアプリ、私もやってる」
「え?」


なんとか仲良くなれそうな事、発見した気がする。
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