短編 | ナノ
○○はそとー

「及川はそとー福はーうちー」

「待って!?可笑しいよね!?及川さん泣いちゃ」

「及川はそとー福はーうちー」

「ねぇ、遮られたんだけど!?!?うちのマネージャー酷くない!?」

「え?及川の言ってることが聞こえませーん」

「野○村さん止めて!」

耳の前に手を置いて聞こえませーんともう一度いう部のマネージャーにその場にいた全員が笑った。

「ぶっ、お前それはダメだろ」

「で、豆がここにあります」

「いきなり話戻るんじゃねぇよ」

「岩ちゃん、ツッコミ担当お疲れ様」

「そう思うならお前はその豆をしまえ。片付け大変だろうが」

「大丈夫。みんなでやれば怖くないよ。という事で。及川は外ぉぉぉぉぉおお」

「イタイッ!イタイイタイッ!」

全力で豆を投げるマネージャーと、笑いながら痛い痛いと言っているドM主将にみんなドン引きしたようだった。
ちなみにちゃんと豆は全員で片付けた。ほとんど岩泉が豆を拾ったようだったが。国見は二、三粒拾ってずっとしゃがんでいたし、豆が食えるか食えないかと話していた花巻と松川、そして事を起こした苗字は岩泉に殴られたのだった。
かなりの力で殴られた彼女は少し涙目である。そんな彼女は言う。

「ちょっとした出来心じゃん……」
「だからって部室でやることじゃねぇべ」
「ううぅ、だって……及川に投げたくなるでしょ!?」
「それは否定しない」
「まって!名前ちゃんも岩ちゃんも酷いよ!?」
「投げたくなる顔はしてるよな……」
「マッキーまで!?」
「わかるわかる」
「待って、この部に俺の味方はいないの!?」

国見がその言葉に吹き出して及川は部室から飛び出してしまった。
国見が吹き出したのは、及川の言葉を肯定と取ったからだろう。部室から出てった及川の背中は誰かに追いかけてきてほしそうに見えたのは、多分及川だからだ。いや実際追いかけて欲しいのだろうが。
そんな事を及川にさせた当の本人は腹を抱えてゲラゲラと笑っている。

「あははは!リアルに外に出たじゃん」
「お前、謝ってこいよ……」
「え、私のせい?」
「そりゃそうだろ。お前がまず及川はそとーとか言わなきゃここ迄事は進まなかっただろうが」
「岩ちゃんが言うなら……怖いし」
「なんか言ったか」
「言ってない言ってない!気のせいですよー行ってきまーす」

頭を岩泉から守るかのように両手で押さえた苗字は部室から出ていく。

「アレであいつら付き合ってるってのがおかしいよな。カレカノのノリじゃねぇもん」
「それは、俺も思う」
「あ、松川も思う?絶対あれは幼なじみとか兄妹のノリだよな。ていうかむしろ家族」
「うんうん」
「一応俺らは幼なじみという部類なんだがな」
「名前が特殊なだけか」
「多分なー。花巻の言う通りあいつは変人だし、特殊だわ。手に負いきれん」
「そうかー?俺は岩泉のいうこと良く聞いてるように思うけど。な、金田一」
「へぁ!?あ、は、はい!そうっすね!」
「ほらー」
「そうか?」

とまぁ、部室でそんな会話が展開されている中、クシャミをして鼻をすすっている花の女子高生である苗字は及川が行ったであろう体育館に入る。息を吐くと白に染められる視界の端に写った及川はジャンプサーブをしていた。

「げ」
「げって何よげって」
「そりゃ、言うでしょ。あんな豆ぶつけられたら」
「もう持ってないわよ」
「本当?」
「何なら確認する?どうぞ?」
「とかいいながら右手に握った豆を俺に投げようとしてくるね、絶対

「わぁお。エスパー徹ね」

そう言ってバレてしまったものは仕方ないと自分の口に豆を放り込む。
何しに来たの、と及川は言った後に再びサーブの練習を始める。サーブを始めた及川を見守るかのように苗字は黙って座った。謝りに来ただとか様子見に来た、なんてことは言わずにただ静かな時間が流れていく。耳に入るのは及川の息遣いやボールが床に叩きつけられる音。

「アウト」
「え、マジ!?」
「うん、アウトだった」

努力家の及川は舌打ちをしてボール拾いを始めた。それと共に苗字もボールを拾う。

「さっきはゴメンネ」
「んー?」
「豆」
「ああ、痛かった。だから許さない」
「どうしたら許してくれますかー」
「……許して欲しい?」
「あなたの明日のコンディションに関わってくるからね。それに私のコンディションにも」
「じゃあ……ぎゅっとさせてください」
「ん、どーぞ」
「……」

首筋に顔を埋められ息を吸われるのは、何度されても得意じゃない。正確には項あたりに鼻を押し付けるのだが、そんな事をする及川は相当な変態である。

「落ち着く」
「ま、小さい頃から一緒にいるしね。匂い変わらないし、うちの家」

それから、そのまま抱き合った形で体育館の床に座り体制を変える。壁に背をあずけた及川とその及川の足の間に座り込み彼に背をあずける苗字。そんな彼女を抱き込むかのように及川は腕を回していた。

「小さい頃、毎年節分になるとさ岩ちゃんパパが鬼になって豆投げてたよね」
「懐かし。徹泣いてたよね、お面見て」
「なんでそんな所だけ名前は覚えてるの?」
「面白かったから」
「意地悪だよね、お前そういうところ」
「そ?意地悪くはないよ」
「可愛くない」
「あ、酷い」
「嘘だよ。名前は可愛い」
「耳元で囁くように言うのやめて、ゾワゾワってするから」

首を振る彼女は複数の足音と話し声に気が付き及川から離れる。そしてそのまま鍵!と扉を開けて言い放った彼女の手には部室と体育館の鍵が握られていた。

「何、それ」
「別に。一緒にいれるでしょう、この方が。家に帰ったらすぐバイバイなんだし」

豆の袋をジャージのポケットから出した彼女は及川に豆を差し出し二人でそれを体育館で食べながら昔話に花を咲かせただとか咲かせてないだとか。とにかく、シュールな光景だろうなと岩泉に突っ込まれてしまったのだった。
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