短編 | ナノ
心の声は

また言われてる。

「あ、赤司くん!お、お誕生日おめでとうございます!!」
「ありがとう」

プレゼントも受け取ってる。

「あ、赤司くーんおめでとねー!」

あ、手振られてる。あ、プレゼントまた貰ってる。
どうして私ってこんなに引っ込み思案で臆病なんだろう。ついつい自分のカバンの中に入ってるラッピングに目が行く。朝一緒に来たというのに、今日は晴天だねぇなんて言ってる場合じゃなかった。いや、忘れてたわけでは断じて無いのだけれど。言う勇気がなかったのよ!

「名前、どうしたの百面相して。面白いからいいけど」

赤司くん、いやこの際もう名前で呼んじまえ。征くんは気づいていないの、それともどうでも良いの、それとも策士なの。でも、彼のことだから最後のがあってるんだろうけど、それにしても酷い。言わせようとしてるのか、もしかしたら天然かも……いやそれはないか。

「落ち着け、私」
「だからどうしたの」
「ううん、何でもないよ」

にっこり笑って何何でもないなんて言ってるの。すごく問題ありじゃないか。言えてない言えてない!
なんでこの場面で『お誕生日おめでとう!』が出てこないの。

「自分、どうした」
「こっちが聞きたい」
「うぐっ、ほっぺ痛い痛い」
「よく伸びるね、相変わらず」
「酷い」

しかし、彼女なのだよ私は。だから言わねばならないという義務以前に言いたいのだ。彼に出会えて本当に幸せだし生まれてきてくれてありがとうと言いたいのに。

「馬鹿野郎、私の口」
「今日はえらく心の声が漏れてるよ」
「え?漏れてる?」
「それはもうバッチリと」
「泣きたい」
「泣けばいいだろう」
「心が篭ってないなぁ」
「……はぁ」
「ため息ひどい」

いや酷いのは自分だってこと分かってるよ。ちゃんとそこら辺は分かってる。けれども何か知らんけど言えないのよ。そう、たかがお誕生日おめでとう、という十数文字が言えないのよ。

「私の意気地無し、馬鹿」
「ねぇ、名前一言いいかな?」
「何?」
「全部口に出てるけど」
「ん?何が?」
「だから、その思ってること?何度もお誕生日おめでとうとか言わないでくれ恥ずかしい。それに俺は策士じゃないしお前に言わせようとしてたわけでもない。むしろ云われてなかったことに気づいていないことは無かったが気にしていなかった」

何だと……!!?

「今のも口に出てるよ」
「うぉっふ……!?」
「ちなみに、今日は晴天だねぇなんてらへんから名前はずっと話してたよ」
「え、うそ」
「俺は嘘をつかないタイプだよ。冗談はたまに言うけどね」
「冗談も嘘も変わらない!」

笑っている彼は楽しそうだった。

「いやぁ、赤司くん母と父、赤司くんを生んでくれてありがとう」
「あれ、名前でさっきみたいに呼んでくれないの」
「抜かったわぁぁぁああ」

とどのつまり、私は赤司くん基征くんにお誕生日おめでとう、という言葉を言えていたらしい。

「心の声ではなく、ちゃんと自分の意思でいうよ。お誕生日おめでとう!」
「うん、ありがとう」

プレゼントもちゃんと渡せましたよ。良かった良かった、めでたしめでたし。

「俺はてっきり名前に誕生日を忘れられてるのかと思ったけど」
「ちょっとは気にしてるの?」
「いや、あまり。絶対名前ならいつか言ってくるって分かってたから」

征くん、おめでとう。

。。。
心の声はちょっと偽装の夫婦を見ていたからですかね、書きたくなりました。
赤司くん、お誕生日おめでとうございます!
この世に生まれてきてくれてありがとう、そして藤巻忠俊先生赤司くんというキャラクタを生んで下さりありがとうございます!
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