短編 | ナノ
DEAR SNOW

小さい頃から、なぜだが"妖"という類のものが見えていた。
俺の持つ"気"が強いのであろう、どの妖も近寄りはしなかったが。
そんなある冬の日、雪が降った。
翌朝襖を開けてみれば一面の銀世界で、思わず飛び跳ねて喜んだ。
そして庭の隅にうずくまる小さな女の子を見つけた。
「おまえは誰だ?」
そう声を掛けると、女の子は大層驚いてこちらをじっと見た。
「私が、わかるの?」
しまった、と思った。
父からも母からも、それと神社の住職からも妖と交流するのはやめろと言っていた。悪いことが起こるらしい。でも、少しくらい試したっていいじゃないか。俺だって、こいつと話して見たい。
「あぁ、わかるぞ。おまえ、妖か?」
「……うん、雪の…」
「名前を、聞いてもいいか?」
「…白雪」
「白雪…お前にぴったりだな」
そう言うと、雪音はぱあっと顔を明るくしてこちらを見た。
「ほんとっ!?」
「うん、本当だ」
白雪と会うのはそれから何日か続き、雪が解ければ白雪は消えた。俺と白雪の奇妙な関係がはしまった。
冬に雪が降れば、我が家の庭には白雪がやってくる。それから俺は雪が好きになった。だって白雪と会えるから。
「それは、何?」
白雪が俺の持っているものを指差した。
「大福雪見というものだ。アイスだよ」
「アイス?」
「む、アイスを知らないのか。甘くて冷たいものだ。本来なら夏に食べるものだが、」
「夏…」
「夏も知らないのか?」
「聞いたこと、あるよ?でも私は夏には溶けちゃうから、見たことはない」
俺からもらった大福雪見を一口かじった白雪は、嬉しそうに笑った。
「美味しい…」
「全部あげる」
「え、いいの?」
「あぁ、俺は冬にアイスを食べる習慣がなくてね」
「ありがとう、頂くね?」
ぱくぱくと大福雪見を頬張る白雪は、ほぉ、と一息吐いた。
「夏、見て見たいな」
「…そうか」
「うん、夏にこの庭を歩いてみたい。木が、緑になるんでしょ?見たこともない花が咲いて、すごい綺麗で…」
庭の真ん中まで走って、くるくると回る白雪を見て、頬が緩んだ。
そして急に、ピタリと白雪が動きを止めた。
「ねぇ、」
「なんだ?」
「私ね、」
「うん」
「持って明日までなんだ」
「そうか、次はいつ来るんだ?」
「……違うの」
「え?」
「私の寿命は、明日まで」
しんしんと降り始めた雪の中に立った白雪は、悲しそうな顔をしてこちらを振り向いた。
「うそだ」
「うそじゃないよ」
「うそだっ!俺は信じない!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、征十郎」
慌てて駆け寄ってきた白雪は、俺に伸ばしかけた手を引っ込めた。俺は暖かいから、触ると溶けてなくなってしまうらしい。
「ごめん、なさい…お母様を亡くして、辛いのに、私が…ごめんなさい」
そう言って、白雪はスッと消えた。
翌日、雪が入って来れないはずの縁側が雪まみれになって、一部分が溶けていた。そこには"また会おうね"と、拙い字で書いてあった。

***

そのまま白雪とは会えず、俺はそのまま中学生になって、高校生になって、ウィンターカップで負けて、京都に来てから二年目の秋を迎えようとしていた。
「征ちゃーん、お客さんよー」
練習中に嬉しそうな顔をした実渕さんが近づいてきた。
「実渕さん、なんかうれしそうですね」
「あら、だって征に女の子よ?なんでも征ちゃんになんだっけ…えっと…あ、そうそう。"白雪"って言えばわかるって…征ちゃん!?」
"白雪"
"また会おうね"
その二つが頭の中を高速で、ぐるぐると駆け回る。ボールをほっぽって、体育館の入り口まで全力疾走する俺を、部員達が驚いた顔で見る。
「白雪っ!」
「あ、ひさしぶりだね、征十郎くん」
声のした方を向くと、そこには"白雪"が立っていた。白い肌に、黒い髪、赤い唇。まるである童話から飛び出したような女の子、雪の精の白雪。
その白雪が、洛山の制服を着て、立っていて、笑っていた。
「会いにきたよ、征十郎くん」
さらりと黒い長い髪を揺らして、白雪が近づいて来た」
「ほんとに、白雪か?」
「うん、でも今は坂本千夏。あっ、あのね!私夏生まれなの!」
「夏、見れた?」
そう聞くと、白雪、いや千夏は嬉しそうにくるりと回ってと笑った。
「みれた!綺麗だったよ。花火も、海も、何もかも。素敵」
「そうか、良かったな」
「うん、でもね、私ね、」
千夏はふふ、と笑った。
「私ね、来年は征十郎くんと見たいな」
その一言に、俺は笑って、千夏の頭を撫でた。
「あぁ、来年は一緒に、いろんな夏を見に行こうな」

。。。
By 桜色カプリッチオ ひつじ様

すごく可愛らしい、素敵なお話をいただきました。始まりから終わりまで、どんなお話なのかとワクワクドキドキしながら読ませていただきました。私のリクエストを受けて下さり本当にありがとうございました。
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