短編 | ナノ
あなたを恋ふる記

その青いユニフォーム姿が。


頼もしい背中が。


チームを鼓舞する、力強い声が


貴方を恋ふる記。

......


切欠は、もう覚えていない。

彼を好きになったのは、中学1年の時。


黒髪。今より少し幼い、意志の強そうな瞳。声変わりする途中の、少し掠れた声。


ああ、こんなに覚えてるのか。



そこで、目が覚めた。

ぱちり。ぱちぱち。

黒板の計算式が、徐々に輪郭を表す。
先生が、こっちを呆れたように見てくる。


「夢…………」

6年前、笠松くんと、いや、笠松くんに出会ったときの夢。

一方的に恋をしたあの日から、もう5年経つのか。

「はあ…………」

片想い歴、今年で6年目。

もうすぐ、彼との道が分かたれる。

「苗字、寝るなよー」

数学の先生の声が、ぼんやりとしていた私の耳を刺激した。


…卒業、したくないなあ。


はい、という小さな声は、先生のもとに届いたのかどうか。


放課後。今日は1ヶ月間で唯一、バスケ部の見学ができる日。

私は、黄瀬くんを目当ての騒がしい女子たちの間を縫って、ささっと、隅っこの方に寄った。

ああ、去年まではここにはほとんどといっていいほど、誰も来なかったのに。だから、彼を独り占めできたのに。

…………まあ、隠れる必要がなくなったのは良かったんだけど。


(あ、)

「黄瀬ェ!そこはパスだろーが!!」

「いたっ、痛いッス!」


彼がまた、黄瀬くんに怒鳴っている。


「あれ、やりすぎじゃない?」

「黄瀬くんが、かわいそ〜」

「てか、暴力とかまじむり」


横から雑音がする、うるさい。


「彼の顔にキズがついたらどうするのよ」

ああ、


「なんな「そんなんだからあんたたち、黄瀬くんの周りの女子の中から抜けられないんじゃない?」 !」


休憩中の黄瀬くんにも、彼女らの声は聞こえていたらしく、なにか言っていたが、遮ってしまった。


「なによ、あんた」

「そうよ、なに?」

「…………別に、顔にキズがついても、黄瀬くんは黄瀬くんでしょーよ」

てゆーか、もしかして

「男の子同士の絆に、嫉妬してるの?」

「!?」

「あ、」

そこで私は、思ったより私たちが注目されていることに気づいた。
笠松くんの方を見ると、彼もちょうど私たちの方をちらりと見たところだった。

一瞬、目が合う。


やばい。
恥ずかしい。


私はその場からばっと駆け出した。


。。。


「あれ、やりすぎじゃない?」

「黄瀬くんが、かわいそ〜」

「てか、暴力とかまじむり」

女子の勝手な言い分が、ふとした瞬間に聞こえた。振り返ると、名前も知らない、顔も見たことがない女子がいた。


「彼の顔にキズがついたらどうするのよ」


俺の顔にキズがついたら、あんたに迷惑かけるのかよ。


「なんな「そんなんだからあんたたち、黄瀬くんの周りの女子の中から抜けられないんじゃない?」 !」


思わず声をあげたとき、誰かの声に遮られた。

その、名前も知らない、身勝手な女子たちの隣の人。また、名前も知らない女子。
けれど、纏う雰囲気が全然違うようだった。


「なによ、あんた」

「そうよ、なに?」

「…………別に、顔にキズがついても、黄瀬くんは黄瀬くんでしょーよ」

そして、続けられた言葉に、

「男の子同士の絆に、嫉妬してるの?」


俺も、横でひっそり聞いていた先輩も、呆気にとられた。

「!?」

「あ、」

周りの注目に気づいたのか、その子が声を上げて、その場からすごい早さで去っていく。


「っ、はは、」


横で先輩が、笑い声をあげた。
さっきの女の子の行方を目で追いながら。

珍しすぎて、さっきの胸くそ悪い女子のことが頭から一切消えた。
この人は、クラス写真の女子さえ直視できない。なのに、なんで、この人は、笠松先輩は、彼女を見て、優しく笑っているのだろう。

「はははは、ふ、はは」

「ちょ、先輩!怖いッスよ!なんなんすか、笑って」

「はは、はぁー、いや、あー、なんでもねぇよ」

誤魔化すように頭をかいて、ドリンクを飲む先輩。

「はぁ!?いやいやいや!なんでもないはないっしょ!?」

「うるせーよ、休憩終わり!!!練習再開すっぞー!」

「ちょ、」

笠松先輩は、まだ少し、さっきの笑みの余韻を残しているようだった。



貴方を恋ふる記。
(いつも視界の隅にいるあいつが)
(今日は真ん中にいた)


。。。
一周年記念で頂きました(^^)
もう、書きますよと仰ってくれたことが何よりも嬉しくて、飛び跳ねて喜びました。私は基本的にこうやって恋に発展する場、もしくは青春してる!という場面を書くのが苦手なので本当に学ぶことが多いです(^^;;でも、こうやって他の方から頂いた作品があるのは本当に誇らしいです!
書いて下さってありがとうございました
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