短編 | ナノ
その背中で泣かせてくれたら




苗字名前。高校三年間、ずっと好きな人がいた。でもその人は運命だ!とか、俺の女神!とか、そんな軽い言葉を簡単に可愛い女の子になら誰にでも言ってしまうような、そんな人。そんな彼でもバスケに青春をかけてて、プレイしている時はどんな時よりも輝いて見えた。
でも、そんな彼は私には一度も運命だ!なんて言ってもらったことはない。彼はクラスの女子を一度は口説いているのに。結局その時点で諦めて、高望みはせず高校を卒業して大学生になった。


「苗字名前……特技は、お菓子作ること?」
「確かに、苗字の作ったのは美味かったな」


大学も違うし、もう会うことなんてないと思っていた。でも、まさか合コンして会うなんて思わないでしょう!!?
私の前に陣取るようにして座った彼はニコニコと笑っていた。


「森山由孝です。今日はよろしく」


手を振る彼は相手側の中で一番カッコイイと私は思ってしまった。惚れた弱み、かもしれない。人数合わせで呼ばれたこれはあまり出たくなかったがでなければ良かった。そう思う反面、出てよかったかもしれない。だって、森山に会えたから。


「しかし、久久じゃん。元気だった?」
「うん。まぁまぁ?」
「何で疑問系?」


酒を飲んで、ツマミを食べて、そして運ばれてくる料理を少しつずつ摘む。周りは周りで意外と盛り上がっていて、森山に話しかける友人がいたら私はそそくさと黙って目を森山から逸らす。
その度に森山は甘い言葉を相手に囁き、いい雰囲気を醸し出す。


「名前ちゃーん」
「あ、はい!」
「森山と同じ高校だったってホント?」
「あ、そうですよ」


もう酔ってるなぁ、とわかる程顔に赤みがさしている相手側の男性で、ゲラなのか何か言う度に笑っている。ゲラ、というか多分笑い上戸なのだろう。


「あいつ、高校時からああなの?」
「ああ、とは?」
「ナンパ?口説く?そんなん」
「可愛い子とか以前に女の子がいればああなりますね」
「あはは!マジかよー!」


高校の時の話をしろと言われ特に出来るものなんてバスケットをしている時の森山くらいだ。それでもいいと言われたので話すと意外と驚かれた。今はバスケをしていないらしい。意外だった。あんなにも、部活に青春注いでた人が。そんな風に思った。


「……まぁ、人は変わりますもんね」


ほろ酔いになってきた頃に風に当たりたくて一度店から出た。冬で、熱を持った体にはちょうど良かった。
ため息をついて自然といつものように手を擦り合わせる。寒いわけではないのだが、冬になると癖で寒っ、なんて口に出してしまうものだ。


「寒いならコートぐらい持ってけよ」
「!!森山じゃん、どうしたの?」
「俺も風当たりに」
「そっか」


いきなり頭にかけられたコートに体を揺らし振り向けばそこには森山が携帯をいじながら立っていた。コートは私のものではなく森山のもの。


「森山、風邪引くよ?」
「そんなヤワじゃないって」
「どーだか。もうバスケしてないんでしょ?体弱ってるかもよ?」
「そんな簡単に体力落ないと思うんだけど?」
「あっそー。人が心配してあげてんのに」


ガードレールに腰を預けて森山のコートを肩にかけ直した。いきなり外に出て体を冷やしたからだろうか、少しだけ寒かった。それに、森山の優しさに少しだけ甘えたくて、体に巻き付けるようにコートの裾を握った。
私の隣に森山も腰を預ける。


「ねぇ」
「どうした?」
「森山、私のこと嫌いなの?」
「はっ?」
「いやだって、私には一度も運命だ!とか、女神!とか言わないじゃん」


お酒の力、という事にしておこうか。普段こういうことは聞かない。友達のようにたわいもないことを話すだけである。嫌い?なんてそんな女々しいことなんて聞いたことなかった。でも、聞きたいから今聞く。


「あー、や、そう言う事じゃ」
「何歯切れ悪い。やっぱり嫌いなんだねー」
「違う!それは、違う……」


お店の看板から必死で言う森山に視線を戻す。その必死さは女の子をその気にさせると思うからやめた方がいいと思うな。違う違う、そんな言葉を吐きながら首を振っている森山が少し心配になった。酔が回って可笑しくなったのだろうか。


「あの、森山?」
「俺、何て言うかな。お前にはそう言う事をいいたくなかったというか……」
「……ふーん?何で」
「あー、それは、だな」


頭を掻きながら溜息一つ。私がつきたいくらいだ。焦れったい森山に今イライラしているのだから。好きか嫌いかの二択で答えてくれたらいいのに。


「お前、こんな所に来てるくらいだし彼氏とかいないんだよな……?」
「何、慰めるの?それは森山も同じ」
「違うんだ。お前があそこにいて、すっごいホッとしたんだ」
「何言ってるの?」


同じでしょ?そう言おうとしたその言葉を遮られ森山のファー付きのコートに顔を埋める。
ホッとしたってどういう事なんだろう。少しは期待しても、いいのかな。でも、いざとなったら躊躇う。


「俺、高校時代お前のこと……好きだったからさ」
「…………カ」
「今何て」
「……バカ」


何でそれを高校時代に言ってくれなかったんだろう。もう、好きになって6年だよ。それでも、今言われても嬉しい。


「え、何でバカ!?」
「あっち向いて!それから耳塞いで!」
「へ?ぁ、はい!」


車道を向かせて耳を塞がせる。それから、全体重を森山の背中に預ける勢いでしがみついた。


「私も、好きだったよ。バカ」


ポロポロ流れる暖かい涙が森山の灰色の服を濡らして黒に変える。


「それ、ホント?」
「は?聞いてたの!?!?」
「本当かって聞いてるんだ」
「……だっただから。過去だからね」
「それで十分だよ」


車道側を向いている森山は私の方を向いて抱きしめてくれた。見られたくない泣き顔が見えないのはいいけど。


「森山、コート……」


音を立てて地面に落ちた森山のコートがすごく気になった。でも、そんなことは彼にとってどうでもいいらしい。ぎゅう、と腕の力を込める彼の首に当たる吐息はとても熱かった。


「俺は好き。だから、付き合って。俺、ずっとお前に恥ずかしくて言えなかったんだ。いつもほかの女の子たちに言えてる言葉がお前にだけは言えなかった。ここで再会したのも運命だろ?違う?」


耳元で聞こえるその声に余計涙が溢れて、森山の服をより一層黒くする。道行く人たちが変な目で見てようがそんなの私には今見えない。見えているのはカラフルな車。


「付き合って?それで、もっかい俺を好きになってよ」


その言葉にもう、もう一度好きになる必要なんてないと思った。だって、もう。


「そんなの、しなくていいよ。好きだったなんて嘘。今も、大好きだから」


重力に従っていた腕をあげて森山の背中に回した。





タイトル:確かに恋だった
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短編で誰がいいか聞いたところ森山先輩がいいという方がいたので書いてみました。よければ、アンケートに読んでみたい人を書いてくださいね。
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テーマ「人外ファンタジー」
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