そこは凄く安心できて、そして、安全な道。踏み外すことのない、不安定で細い道じゃない。そこはとても頑丈で太い一本道。迷うこともなければ落ちることもない。私は自分でこの道を選んだんだ。不幸に思うことなんてない。
「青峰」
「ああ?んだよ」
「さつきが呼んでいた」
「あー、いいんだよ。また部活の話だろ」
屋上に寝転んでいるやつは極端に部活を嫌っていた。中学から同じで高校も同じだった。いや、語弊があるな。同じにしたんだ。青峰と一緒にいたかったから。なんて乙女チックで単純な考えだろう。
「もうバスケ、しないのか?」
「あー、別に。したい時にしたらいいだろ」
趣味で済まされる程度内の才能であるのならばいいよ、と。笑って言っていただろうか。
「しなよ。青峰に期待してる奴らもいる」
「は?」
「だから、逃げないで。青峰のプレーを見てスカってする時が」
「うるせぇ!」
飛んできた上履き。それは明らかに私を狙っていた。それも顔面。頭上を飛んでいった上履きを見送って青峰を見ると、見てもわかるほどに怒っていた。
「なぁ、お前もかよ。さつきもあの部長も、いけすかねぇ奴等も全員お前みたいに初めは言ってきた。だけどな、言わなくなってようやくスッキリしてたんだよ。なのに、何でお前までんなこと言い出すんだ」
「それ、は」
「目障りだ。消えろ」
まるで喉から絞り出すようにそう言って青峰は再び寝転がった。ただ、壁が今の一瞬で生まれたという事を物語っていた。
背中を向けて寝ていたから。もう本当に視界に入れないように。
「その、ごめん」
それしか言えなくて、何を言ったらいいのか分からなくて、その言葉を残して後ろ手に扉を閉めた。そして目に入ったピンク色。
「さつき」
「その、ごめんなさい。聞くつもりはなかったの。私、青峰くんに用があるから、ごめんね」
「いや、気にしないで」
その後見たのは仏頂面だが、さつきと歩いている青峰を見た。ああ、あそこに入る隙間なんて一切無いんだとわかった。私はさっき浅くなっていた溝を再び掘り起こしてしまったんだ。
私が選んだ道、それは、もう青峰とさつきに関わらないこと。届かない存在に手を伸ばし続けても意味はない。さつきの隣を歩いている青峰が、笑っているように見えた。