期待させないでの続
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宮地くんが、彼女と別れた。理由なんて知らない。彼女が泣きながら宮地くんをフッたとだけしか、知らない。
「宮地くん……?」
「あ、え、苗字……はよ」
正直に言うと、今の宮地くんは見ていてイライラするし、楽しくもない。せっかく早起きしているのに、無駄になってる気がしてきた。
「そんなにあの子が好きなら言えばいいじゃん。宮地くんのバーカ」
私、最低だ。イラついたあまり、宮地くんに八つ当たりしてしまった。宮地くんに嫌われてしまったかもしれない。
「っていうことが朝あったの……」
「……そっか」
私が沈んでれば必ず気がついてくれるのは彼女さんだった友人だ。こんなこと相談してもいいのか、悩んでいれば笑顔で宮地くんのこと?と聞かれてしまった。そう聞かれてしまったらうん、と言ってしまうのが私だ。
「ねぇ、なんで私が宮地くんと別れたか、わかる?」
「……わかんない」
「宮地くんね、気づいてなかったんだと思うけれど、私よりも好きな人が近くにいたんだと思うの」
どうして笑ってられるの?
「それを私は知ってたから。付き合う前から知ってた」
「へ?」
「それでも私は清志が好きだったから」
そう言って先程とは違う悲しそうな涙をこらえているような笑い方に変わり違う友達のところへ行ってしまった。
あんな美人な友人に勝てるわけない。
私はそう理解してたんだ。
「宮地くんって背中広いよねー」
「胴長なだけでしょ」
「は?何言ってんだよ、苗字は短足だろ。轢くぞ」
「はぁ?……チビだけど座高は低い方だしっ」
朝のことを謝ろうと思って宮地くんと話しているグループに入った。
正面から背後へと回ると指で背中に文字を書いた。
バーカ
「バカはお前だ」
「あ、すごい。わかったの?」
じゃあ難易度を上げて少し早く書いてやった。それもわかられたので次は漢字。でも流石に漢字はわからないらしい。
好き
「は?わかんねぇし、もういいだろ」
顔を背けられてしまった。
意地悪したから嫌われたのだろうか。シュンとしてオロオロしていたらいつもみたいに大きな手が頭の上に降ってきた。
「わっ」
「怒ってねぇよ、別に」
「も、もしかして……書いてること、わかったの?」
椅子から勢い良く立ち上がった彼はやはり私よりも大きくて羨ましかった。
ていうか座ってたのに私の頭に手が届くってどれだけ腕長いのよ。
「んぐっ、宮地くん頭頭!!!痛いってば!」
宮地くんの顔を見ようとしたら頭を押さえつけられてかなり痛い。待って、押さえつけられたら
「私縮んじゃう!止めて!!」
泣きそう、何でこんなことされなきゃいけないのよ。
また何か怒らせること言った?ていうか、本気の本気で書いたことわかってしまったのだろうか。そりゃあ、確かに顕現とかよりは漢字わかり易かったかも知れないけど……。
「……わりっ」
手が頭の上から離れたところでようやく見上げることができた。
「!?!?何で、顔赤いの……」
やっぱりわかったんだ!わかられちゃったんだ!
「ち、違うの!あれはね、あのっえっとそのっっ」
言い訳をしようと思ってもいい言葉が出てくるわけじゃなくて、とりあえずあんなことを考えずに書いてしまった過去の自分をぶん殴りたい。
「お前、さっきの言葉本当か?」
「う、うるさい!宮地くんなんて知らない!」
「待てよっ」
「はーなーしーてー!!嫌だ嫌だ嫌だ、聞きたくないよー!あわわわわわわわ」
「聞け!」
「ひいぃ!?」
突如背中に走ったこそばゆい感覚に身をよじる。
宮地くんの指がゆっくりゆっくり私の背中で動くのがものすごくこそばゆくて泣きそうになったけど、頭をがっしり掴まれてるせいで動けないし……
スキ
「へ?も、もっかい」
オレモ スキ ダ
「わかったか?」
「うぅううう、嘘だぁぁ」
「はぁ?んなもん嘘なんか書くかよ、撲殺すんぞ」
テスト期間でほとんのどの人は家に帰っていて、ほぼ人がいないこの教室。でも、友人は数人いるわけで……横目で見るとニヤニヤこの状況を見て楽しそうに笑っている。その中には朝話を聞いてくれた友達がいた。
「あ……」
頑張れ、そう彼女の口が動いた気がした。
「……んだよ」
「ねぇ宮地くん、背中出して」
「は?」
「早く!」
ワタシト ツキアッテ クレマセン カ?
「!……苗字。帰ったら勉強教えてやる。帰るぞ」
「へ?」
そういった彼はさっさと支度を済ませて私の隣にたった。ただでさえ身長でかいんだから威圧感ハンパないのに、やめて欲しい。
ていうか今名前で……
「名前は彼氏とは一緒に帰ってくんねぇの?」
たまにはこんな始まり方の恋もいいと思う。
「か、帰る!」