短編 | ナノ
期待させないで

「あ、宮地くん」


「おー、苗字。はよ」


「おはよう」


「今日も大きいね」


「お前はチビだな」


「ちっさくないもん!」


男らしい大きな身長。


「童顔のくせして!」


「ああ?轢くぞ!」


「酷いっ」


顔面童顔のハニーフェイスのくせして、むちゃくちゃ笑顔で人を罵る。
部活はバスケット部で、レギュラー所謂スタメン。学年で上位の成績だから、部活禁止期間でも彼はバスケットの練習をしていいことになってる。


「今日の数学の課題、わかんなかったの」


「お前馬鹿だもんな」


「な!?馬鹿じゃないっ」


「こないだ、下から数えた方が早かったんだろ?」


「うぐっ」


彼に口で勝てる日は来るのでしょうか、わかりません。


「そんなことより!昨日のあれ見た?みゆみゆ出てたよ?」


「ちゃっかり録画してある。昨日は疲れて風呂入って寝たからな。内容はいうなよ」


「そう言われると言いたくなるのが人間だと思うのね」


また笑顔で刺すぞ、と今度は違う物騒な言葉が飛んでくる。
でも、そんな日常が楽しくて、頑張って朝早く起きて宮地くんと登校するのが日課となっている日々。朝起きるのは辛いけれど、楽しいから平気。


「数学、今日何時限目だった?」


「え?……5?だったかな?」


「なら教えてやるよ」


「!本当?」


「ん、昼飯食った後に教えてやる」


彼は優しいし、口悪いし、童顔だし、ドルオタなのに……そんな彼が大好きです。
別に一目惚れとか、そんな単純な理由じゃないよ。ただ、本当に好きになっただけ。
優しいところとか、努力家のところとか、全部。


「お前飯食うの遅いだろ。早く食えよ」


「なんで知ってるの?」


「あ?見てるから」


でもね、その期待させる言葉はやめて欲しいの。言われてて意外と辛いから。
宮地くんが、私を好きになることない、これからもきっと。断言できるのは宮地くんに彼女さんがいるから。それもオトナっぽい。
私みたいなちんちくりんじゃないんだ。


「宮地くん、彼女さんとは食べないの?」


「いーのいーの。あいつ、あんま学校でイチャつくの嫌うから」


「お昼ご飯くらい、ダメなのかなぁ」


「嫌なんだと」


でも、さっきの言葉裏を返せば学校以外だったらどれほどイチャついていてもいいってことだよね。
いいなぁ、宮地くんの彼女とか。


「んじゃ、また教室でな」


学校に着けば体育館直行の宮地くんと教室直行の私。
この登校の時間が一番楽しくて、幸せ。
こんな些細なことでも嬉しいものは嬉しいのです。


「あ、名前おはよう」


「おはよう」


「今日も宮地くんと登校?」


「うん」


それは、彼女さんで、一緒に宮地くんと登校してる私を嫌な顔一つせずに撫でてくれる私の友人。


「そっか。今日も口悪かった?」


「?うん。いつも悪いよ」


「そっか……」


「でもさ!」


そう言って会話に入ってきたのは別の子で。


「宮地って、名前にだけだよね、口悪いの。女子にはあんまし言わないもん、あいつ」


「!……そうなの?」


だから毎日聞いてくるんだね。
口悪かったって。そんなこと聞いたら、期待しちゃうじゃん。
違う違う。きっと妹みたいに見られてるんだよ。そうだ、そうなんだ。


だから……



「宮地くんのばか」



期待させないでよ、心臓持たないから



title by 確かに恋だった様
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