短編 | ナノ
男女逆転



「名前先輩ー……それは」


「言うな。言ったら負けな気がする」


「いや、でもそれ……」


「はい、あ〜ん」


男性に美人と使うのは何だがコイツは美人だと称してもいいだろう。
実渕玲央。皆からレオ姉とか呼ばれてる。
ついでにオネェ。ついでにあーん、というのは私がされているのだが……


「ねぇ、食べてくれないの?」


「いや、それは……」


彼の手作り弁当をあーんされているわけだが。ちなみにタコさんウィンナー。私はこんな細かいもの作れないぞ。
今朝卵焼きを作ったらスクランブルエッグにした女だ。


「アタシの愛を受け止めてくれないの?」


「だぁぁあ!食べればいいんでしょ?!」


「そうよっ」


ああ、彼の語尾に音符が、星が見える。小太郎、そんな顔をしないで欲しい。
引ききってる顔。


「美味しい?」


「うん、美味しいよ。玲央」


「征ちゃん、きいた?もう、嬉しいわ。ほら、もう一個いって」


毎回毎回お弁当を作ってきてくれるのはすごく有難いんだけど……この鮭かなんかのふりかけで書かれているハートをどうにかして欲しい。こんなの、母さんだって作ったこと無いだろう。もちろん、父に。


「ん、美味いよ」


ニコニコ目の前で笑っている彼氏の頭を撫でると猫のように目を細める。
なぜこんなにも彼氏の方が女子力高いんだろう。


「玲央、イチャイチャするなら余所でやってくれ」


「なぁにー、いいじゃない。ねー!」


首を傾げないで欲しい。可愛いから、イケメンだから、美しいから。
やめて、キュン死にする。


「あ、あ、うん、そうだね」


「もー、名前ったら、顔が真っ赤よ!」


あー、玲央を生んだ両親さんに感謝。
何でこんなに美男に生んでくれたんだ。私のためか、そうなのか。
ただ、こういうのは恥ずかしいから好かないのだが。


「は、恥ずかしいじゃん」


「もう!照れてても可愛いわぁ」


男っぽい私を可愛いと言って懐いてくれたのは玲央が初めてだったし、こんなに優しく抱きしめていた名前を呼んでキスしてくれる男なんて他所にいない。私のことを第一に考えてくれる、それが玲央。


「ねーねー、今度のデートどこ行く?」


いつの間にか二人だけになっていた。赤司くんや、小太郎たちはどこかに行ってしまった。それを好機に見たのか私を膝の上に乗せる。ジタバタと暴れようにも腹に巻き付くように腕が回っているのだから逃れられるはずもなく。


「んー、だったらこないだ新しくできた学校前のカフェ。結構客がいたんだ。だから、美味しいと思う」


「あら、また食べ物?」


「玲央が聞いたんだよ?どこがいいって」


「まぁね」


肩に顎を乗せるものだから玲央のサラサラの髪が耳を掠って非常にこそばゆい。それに、声が耳元で聞こえるものだから恥ずかしさが倍増する。


「ねぇ、玲央〜」


「なぁに?名前」


「私のこと好き?」


「当たり前でしょ!」


例えお弁当を作ってくるのが男でも、手を繋ごうと言ってくるのが女でも。どちらにしても愛し合っていればそれでいいんだと思う。
私の場合、優しく抱きしめて名前を呼んでキスしてまた抱きしめてくれたらそれだけでいい。愛されてるってわかるから。
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