短編 | ナノ
あなたが好きです

「木兎ー、キャッチしなよー!」
「おしきた!待ってたぞ、名前の!」
「名前ー、私もー」

「よし、木兎、雪絵、行くぞ!」

私の手を離れていくケーキたちはうまくキャッチされ、中身を開けられる。他の人のは丁寧にラッピングしてあるがこのふたりはそんなこと一切しない。それは、一年生の時に学んだから。

「はい、どーぞ」
「お、サンキューな毎年」
「うん。またホワイトデー待ってるね」
「うし、任せろ」

かおりや、ほかの3年生や後輩に渡して残ったのは、入部当初から結構話している後輩ひとりとなった。
何故か、渡せん。
目の前に来て名前を呼ぼうと口を開けばすぐに固まってしまう。多分理由は彼が持っていた紙袋にあるんだろう。
ピンクや水色など、パステルカラーに包まれたものを無造作に紙袋に入れていた。

「私のよりおいしいのとか、いっぱいあるんだろうなぁ」
「うーん、多分そんなことないと思うけどー?」
「ゆ、雪!?」
「名前から貰えたらきっと喜ぶよー?」
「どーだか。私のも無造作に紙袋に入れられてバイバイかもよ」
「えー?そんなことないよー」

雪絵、友チョコ大量にもらったんだね。そんな貪り食わんでも。自分は数人の男の子と、部活内でしか配らない割に逆チョコやら大量に貰ってくる。まぁ、上げたくなる気持ちはすごくわかるよ。こう、頂戴って言いながら手を伸ばしてくる姿なんてすごくキュンってする、って今はそうじゃない。

「どうしよう。もうあげないって手もあると思うんだ」
「名前も弱気なところあるんだねぇ」
「それどういう意味」
「んー?恋にも何でもストレートにパンって行く人だと思ってたって意味ー」

ストレートにパンって何。

「でも、多分ほかの子より愛情は勝ってると思うけど?」
「かお!?」
「ねぇ、雪絵」
「だねぇ」
「恥ずかしいことを言う」
「どうかしましたか」
「ひぃ!? 」
「え」

ひょっこり後ろからかけられた声に悲鳴になりきらない悲鳴を上げてしまった。聞こえたのか、少しショックそうな声を出したのは後輩の赤葦である。
もう言おう、渡してないのは彼1人である。

「あ、赤葦……ごめんね、ビックリしたの」
「いえ、俺も驚かせてすみません」

赤葦のだけ甘さ控えめにしたとか、ちょっとみんなと違うとか、本命だってわかってしまわれると恥ずかしい。で、フラれるでしょ。で、部内での雰囲気がちょっと、ってなっちゃって私が部活を辞める……そんな!どうしよう!

「何百面相してるんですか」
「いや、まぁねぇ……あ、あははは」
「苗字さん」
「はいはい」
「もしかして忘れてます?」
「へぁ!?なな、な何を!」
「今日、何の日か忘れてますか?」

ああ、バレてる。この笑い方はバレてる。そして根に持ってる笑顔だ。目だけ笑ってないんだよ赤葦。普段あんまり笑わないのに、こういう時だけ笑わないでよ。

「バ、バレンタインデーデス」
「ああ、分かってたんですね。で、忘れてます?」
「い、やあ、赤葦は甘いもの苦手かなぁ、と 」
「分かってるから甘さ控えめとかにしてくれるんでしょう、俺のだけ」

うん、バレてるなこりゃ。

「あ、赤葦キャラブレが」
「そんなのどうだっていいでしょう」
「よくないよ!?」
「もう諦めてください。木兎さんに頭冷やしてこいと言われる程度に俺のトスに関わってます」
「は?」

まって、雪絵とかおりどこいったの!?ヘルプなんだけど、いろいろキャパシティーオーバー何ですけど!

「あなたから貰えるか、貰えないかで俺のトスのコンディションが変わるんです。分かりませんか」

赤葦、ガチ目にキャラが崩れてきてるよ。どうしたの、本当に。

「は、あ」
「じゃあ、ください。」
「えっと」
「くれないんですか?」

捨てられな子犬みたいな目で見るのやめてよ、本当に。

「み、みんなが見てるし」
「かんけーないですよ」
「あ、えっと……わかった。あげる、ので……離れてください近いデス」
「そうですか?」
「近い、デス」

吹き出す音が上から聞こえた。なんだと見れば赤葦が声を上げて笑っている。
なんだと焦れば上から降ってきた言葉は想像以上の言葉でした。

「かわいっ」
「な、な、なッッ!!!?!?」
「っ先輩、ホワイトデー楽しみにしててください」

破壊力、半端ないですよ赤葦くんや。

お返しはなんなのか、それはまた3月14日まで待たなきゃならないのが、辛い。

「先輩」
「はいはい」
「何味のキャンディが好きですか」

ゆでダコになっている気がしたのは意味を知っているから、だ。そして、わかっているように笑ってる赤葦がカッコイイからだ。

「……りんご」
「りょーかいです」

だからいちいち笑わないでよ、バカ。
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