真っ白なフィルム | ナノ


  なな


「……何か、僕に隠していないか?」


『え?』


真剣な顔に少しだけたじろぐ。


「桃井が昔馴染と、君を含めて言った。だが、僕の記憶に君らしき人物はいない。君は、誰だ」


征を久々に怖いと思ってしまった。
綺麗な顔にしわを寄せ私を睨みつける。氷室さんはあっけに取られた顔で颯太くんを撫でる。征の顔を見てグズっている。


『隠してなんて、ないですよ』


「桃井か真太郎、テツヤに聞けばわかるか?あの日、真太郎たちが見舞いに来た時桃井は泣きそうな顔をしていたな。真太郎とテツヤと病室を出ていった。どうだ、話してみる気はないか?」


『だから、私は玲央の友達だから玲央に頼まれて見に行っていただけです』


「嘘だね。真実を言ってスッキリしたらどうだ」


『知りません!違います!は、離して!』


目をそらし、手を振り解く。帽子が音を立てて地面に落ちる。形を崩し潰れた。


「……す、すまない。そんなつもりは…………」


『ち、違っ……』


何度私は泣けば気が済むのだろうか。
ああ、私のせいで征が困ってる。眉毛を垂らして泣きそうになっているその顔は久々に私のことを見てくれたのだと思うと気持ちとは裏腹に嬉しくなってしまう。


「すまない……泣かせるつもりはなかったんだ」


視界が真っ暗になった。目を凝らして見てみるとベストのような素材が目に入る。征が着ていものだった。
それから背中に感じる違和感。


また、抱きしめられてる。こんなに抱きしめてくれたのは中学くらいまでだった。それも、征が代わってしまう前だ。
必ず私が泣いてしまったときはこうだった。これは香織さんにもやっているのだろうか?そうだったら嫌だなぁ……。
私だけだったのに、こうやって抱きしめてくれたのは。


「……何故だろう、光が泣いたときはこうしなくちゃいけないと思って。泣かないで……」


癖というものは本当に恐ろしいのかもしれない。自分の記憶にあるのは友達の友達だ。彼の中での位置づけはそう。
だから、私のことなんて抱きしめる筈ないのだ。なのに、どうして抱き締めてくれるのだろうか?


『あ、赤司さん……!』


「泣きやんだかい?」


『は、はい……も、いいです。すみません』


「僕が自らしたことだ。すまない。それに、話してもいいと思えた時、話してくれないか?やはり君は僕に何か隠してるんだろう?いいと思ってからで構わない。話してくれ。いくよ、辰也」


「あ、ああ。ほら颯太。こっちおいで」


大きい瞳に少し涙を貯めている颯太くんに手を振り落ちていた帽子を拾った。
土を払いまた頭に乗せた。瞳をこすると手に涙がついて濡れた。頬も拭うと同様に手を濡らした。


『……はぁ、帰ろ』


疲れを取るための休日だったのに、反対に疲れてしまった。
もう、会いたくない。そう願ってしまった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

明日も休みになったよー

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


携帯を取り出すと二、三時間前に来ていたメールだった。
差出人は山岸さんだ。
ああ、明日も休みなら玲央の家で飲もうかな。ワインでも、ビールでも何でもいいや。


取り敢えず酔いつぶれたい。


****


『でさぁ、私のことは見てくれてないじゃん?だってぇ、覚えてないんだもんねぇー』


「あんた、もう飲むのやめなさいって。もうベロベロじゃない」


『やぁーよ!楽しいんだから!私にとって玲央といるのだけが楽しいんだもん!飲んでる時なんて、尚更ね』


「……その言葉に、どれだけ反応してんのかわかってんの?」


そこからはあまり記憶にない。


私は……してはいけないことをしてしまったんだろう

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