さん
忙しい。
それに限る。
だから、こういう時すっごく焦る。
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今から会えるか?
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征と緑間くんからのメール。
これはどちらを優先させるべきなのか私にはわからないし、どうしたらいいのかもわからない。
ちなみに私的には此間緑間くんにまた今度、と約束した為緑間くんを優先させたい。けれど……
『会いたいんだよなぁ……』
自然と口から出たのはその言葉。
それは凄く自然と口から出たのだった。
でも、会うと約束したのは緑間くんだ。そこはちゃんとしなくてはならない。だから、征の方はまた、そうメールを入れ緑間くんと会うことになっと。
****
『ごめん、待った?』
「いや、俺も今終わったところだ」
『なら良かった』
着いたのは病院。緑間くんがちょうど休憩時間だというのでわざわざ病院に来た。
緑間くんは医者になって自分の父の跡を継いだ。
ちなみにあまり病院に来ない私にとって病院は大きな迷宮のよう。
「また迷ったのか?」
『総合病院は広いの、仕方ないよ』
「ふんっ、人事を尽くしていないからだろう」
『そんなことないよ』
休憩室のような、待合室のようなそこはお婆ちゃんやお爺ちゃんの談話室のようになっているようだ。
征が入院していたときはちゃんと道を覚えたけれどまたここは違う病院だ。
道を覚えることなどないし来ることなど早々ない。
「……なぜ黙っていた」
『……言う必要ないかなって』
窓に視線を移せば自分の姿が映っている。相変わらず眩しく感じる外の世界に目を細める。
ちなみに私はコンサートでも必ずサングラス着用し、照明はなるべく明るくないようにしてもらっている。
「言う必要がなかっただと?巫山戯るなっ」
『巫山戯てなんかないよ?至って普通だから、私』
「普通?思い出してもらうまで通い続けるつもりじゃなかったのか?」
『……早々に見切りをつけて、諦めた。香織さんと征の間に割って入れるほど私は勇敢じゃない』
「何を言っているのだよ!」
お婆ちゃんたちは耳が遠いのか顔をこちらに一瞬向けただけで普通におしゃべりをまたし始めた。
大声を出してしまったことにバツ悪そうな顔をして緑間くんは額を抑えため息をつく。
『……ねぇ、緑間くん』
「何だ?」
『もし、もしね。付き合ってた人にいきなり違う人が好きになったって言われたらどうする?あっさり諦められる?』
「そんなわけないのだよ。何としてでもまた振り向いてもらう」
『それと同じ。何としてでもまた振り向いてもらう、そのいきが大切なんだよ。でもね、もう眼中になかったら?何度も傷つけられる言葉を投げかけられたら?頑張れなくなる。だってもう辛いもん』
玲央の友達だということから私は昇格しなかった。ずっと玲央の友達として接せられた。それ以上のランクはない。思い出す以前にそのランクで止まったまま。
《玲央のお友達》
そこから彼の意見が変わることはなかった。
言えばよかったのかもしれない。私たちはこういう関係だったと。でも、旦那様や香織さんに真偽を聞かれてしまっては違うと二人は答えるだろう。
『……もう、疲れたの。もう新しい恋とか眼中にないし仕事で手一杯で恋に現を抜かしている暇もない。だから、諦めた』
「……それじゃあ、この現状のままでいいのか?」
『うん。だって、今更思い出して思いを告げたところできっと彼は香織さんが好きだもの』
「それは違うな。二階堂に聞いた。自分がしたこともないことを彼は求めてくると。チェスも将棋も、できないのにできるだろうと言ってくると。あいつは今でもお前の面影を探してるのだよ」
……そんなこと、今更言われてもどう仕様も無いじゃないか。
面影?忘れておいて?
『……け……いで』
「?」
『…巫山戯ないで。こちとら、そんなことしてる暇なんてないのよ。人に構ってられるほど暇じゃないの。もう終わったの!この話はもう終わり!じゃあ、私忙しいから』
言われたくなかった。私にとって今まで保ってきたものが崩れ落ちる。緑間くんといると崩れ落ちそうになる。
面影を求めている?だったら思い出してくれたってよかったのに。
香織さんも幸せでしょ?赤司香織になって。私はそこに立つことさえ許されないのに、あなたは何を言ってるのよ。できないのに?できるようにしなさいよ。
じゃないと……
盗っちゃうよ?
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