真っ白なフィルム | ナノ


  いち


「――誓いますか?」


「「はい」」


おめでとうございます


****


緑間くんの長い挨拶があって、何故か意外と青峰くんが泣いていた気がする。
案外こういうことには感動するタイプらしい。
私は玲央と一緒に呼ばれた。
私は本格的に歌で稼いでいる。稼いだお金は半分自分に、半分赤司の旦那様に渡している。
もちろん顔は出さずに口座に振り込む形になっている。


「……ねぇ、光?」


『ん?なぁに?』


「ううん。……征ちゃん、かっこいいわね」


『……うん』


私は営業スマイルがうまくなった。
だからきっと今もちゃんと笑えている。でも、玲央はきっとわかってるんだと思う。


「もう、そんな笑いアタシに、向けないでって言ったでしょ?」


『はーい』


やっぱり玲央には敵わない。
ちなみに八年前、私が大学生になった春玲央達のファッションチームで私はモデルをした。玲央達は優勝はしなくても準優勝と言う形だった。
私は十分だと思ったけどやっぱり全力を尽くしたのだから優勝したかったんだろう。帆奈美さんたちは涙していた。


「光、玲央、小太郎、永吉、千尋。今日は来てくれてありがとう」


「征ちゃん、かっこいいわよ!花嫁さんも……綺麗」


「ホントだよなー、美人さん捕まえてさ」


『おめでとうございます。赤司さん』


「ありがとう。ねぇ、光。折角だし歌ってくれないかい?」


そんなの、いいに決まっているのに。
頷くと彼は幸せそうに笑ってありがとう、と言った。


「光ちゃーん!」


『さつきちゃん?』


「ねぇねぇ、一緒に写真撮ろうよ!昔馴染みでっ」


『さ、さつきちゃ』


「ほら、はやく!」


結局征の記憶は戻らないままで、それを彼女らには何も言っていない。
だから、さつきちゃんもキセキのみんなも、誰一人知らない。

もちろん、征も。

だからこんなことされると困るのだ。


「昔、馴染み?」


『さ、さつきちゃん、私はいいよ。ね?』


「何で?ねぇ、いいよね、赤司くん。だって私たち一緒にマネージャーしてたんだもん!」


「マネージャー……?どういうこと、だ?」


「え?光ちゃん……嘘でしょ?」


そんな、とでも言いたそうな顔をしている彼女の瞳は目一杯広がっていて今にも目玉が落ちそうだ。
相変わらず、綺麗なピンクの瞳。


『ね、いいから。行って来て?』


「う、うん。ごめん、赤司くん……行こう」


「ちょっと、待て……桃井……今、」


『赤司さん!行ってきてください』


背中を軽く押して私は玲央の隣に座る。それから何もなかったかのように食事を再開した。
根武谷さんが不思議そうな顔をして首を傾げる。


「お前、帝光だったんだろう?あいつらとは知り合いじゃなかったのか?」


『……知り合いですよ。でも……赤司さんは私のことを覚えていません。彼は、私の記憶を捨てましたから』


「永吉!あんた無粋な質問すんじゃないわよ!」


玲央が根武谷さんを小突く。
玲央が何を言ったかはわからなかったがきっとそんな質問するな、とか言ってそう。
ちなみに玲央は有名なデザイナーで、私のコンサートの服とかは全部玲央任せ。おかげでいつの間にか玲央、と呼ぶくせがついてしまった。


『本当……綺麗ですね、香織さん』


てっきり征は寺院とかでやるんだと思っていたら意外とウェディングドレスを香織さんに着せたかったらしい。本人もいつも家で似たような格好をしているからタキシードが良かったようだ。
そして、旦那様もそれで首を振ったらしい。
真っ白なウエディングドレス。とても似合っている。
私には似合わない真っ白なドレス。


「ねぇ、光」


『どうしたの?さっきから不満そうな顔して』


「この後、二次行かずに抜けなきゃいけなくなったのよ」


携帯を先程まで持っていたのはどうやらその件らしい。
不貞腐れているのかグラスに入っているワインを一気にのんだ。


『私も行こうかな。これ以上いたら壊れそう』


「!……一緒に抜ける?」


『うん。そうしよっかなぁー』


私もだいぶ酒が回ってきたらしい。
玲央はもの凄く酒に強いからどんどん飲んでも支障はないが私はある。普通に飲める程度だから玲央といたら大概私が潰れて起きた時には玲央の家ってのが多い。
玲央、女子力高いから朝ごはんがまた美味しい。


「もぅーヤになるわ」


『分かる分かる。私も急に仕事入ったりするんだもん。ダメとか言ってる日でもね』


私たちふたりは多忙なのだ。
司会を務めている緑間くんが私の名前を呼んだ。
結局私は征が私のことは思い出さないだろうと早々に見切りをつけ退院してからは会っていなかった。玲央について行って会うくらい。
だから呼ばれると思ってなかったんだけどね。呼んでくれたし、征だからギャラなしで全く構わなかった。


『んじゃ、結婚式定番なButter-fly』


一応CDはあったようでそれに合わせて歌った。
拍手が上がり笑って手を振る。慣れたものだなぁ、なんて思ったりしてる自分がいるけれど実際は笑うこととかがちゃんとできなかったし未熟な時期は大変だった。
征のこともいろいろあったので、一時期笑顔がなかったけれど、克服さえしてしまえば何もなかった。


「おい、白銀」


『ん?あー、緑間くん。どうかした?』


「後で話が……」


『ごめんね、私二次会行けないから……また今度ね』


ここは東京。もちろん、玲央も私も東京住まい。だから昔みたいに後で話すことができないという不安はない。
渋々と言った顔で頷いた緑間くん。黒子くんも不安そうな顔をしていた。


「ありがとう、光」


『いえ。また何かあったら言ってください』


頭を下げて二次会に行く人たちとは別れて玲央と抜けた。


あの日から何年経ちましたか?


もう八年たったんです


そしてあなたは結婚してしまった


だからもう、思い出さないで。思い出したら思いを告げたくなってしまうから。

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