にじゅういち
『今日でバイバイなんだ……』
「言い方がキモい。子供みたいにいえば可愛いとでも?」
本当に山岸さん厳しい、心に刺さるよ、その言い方は。
これでも傷ついてるんだけどな、私。
『そんなことは思ってませんー』
コンビニに売っていたパンにかぶりつく。焼きそばパンは歩きながら食べるのには向いていないパンだと思う。
理由は焼きそばが溢れるから。
「……隣で食べながら変な音出さないでくれません?」
『らって、ひょうはふぁいれひょ』
「食べながら話すな。きたねぇ……」
『んぐっ!?……本当にあなた女ですか?』
「うるさいわ。仕方な言って言われても変な音出して注目を浴びるのはあなたなんですから、バレたりでもしたらどうするんです?」
山岸さんはマネージャーに向きすぎ。口が悪くなかったら完璧なくらい。
優しいし気配り上手だし、第一に自分がマネージメントしている人のことを一番に考えてくれる。
『確かに、そうですね』
「やっとわかりましたか」
それと服のセンスを除いて、完璧。
「声に出てますよ」
『……顔怖い顔怖い』
思わず後ずさってしまうほどの怖さだった。
焼きそばパンを食べたあと、ポテチの袋をあけて口の中に放り込む。いい音が鳴った。
「肥えますよ」
『うるさいです』
「……あなたのことを思って言っているのに」
ミニサイズだったためかすぐに食べ終わりベタつく手を洗いにお手洗いに向かった。
音を立てて流れ落ちる水が冷たくて気持ちいい。火照った体をゆっくり冷やしていってくれるようだった。
『ふぅ……』
顔をあげたとき、あまりにも自分の顔がひどかった。血の気がないその顔に驚いた。
原因はわかっている。
『……馬鹿だなぁ、私も』
今まで歩いていけば会える距離に彼はいた。会いに行こうとは思わなかったけれどそれでも、近くにいるのだけでも安心した。
離れなかったから今まで正気だったのかもしれない。
ポケットから取り出した写真を抱きしめる。それは私と征を写している写真だ。中学入学してすぐの頃だろうか、制服を着ていた。
『……っ、う』
誰もいない場所で私は静かに涙を流した。
こんなに悲しいのならば最初からがツンと言ってやれば良かったんだ。そしたらこんなに悲しい思いはしなかったのに。
『ほん、と……バカ』
静かに涙が写真に落ちて私の顔をボケさせた。
「やはり、嫌ですか?離れるのは」
『!……山岸さん』
姿鏡にセンスの悪い服が映っていた。
本当に、センス悪くて、人の心配ばっかりで。優しくて。
「泣きたい時は泣いてください。誰も咎めはしません」
それはありきたりな言葉だけれど、心に沁み込んだ。
泣いていいんだ、そう思わせてくれた。
****
『すみません、泣いて』
「別に。誰だって涙は流れますから。鼻すすらない!汚いから」
『……はい』
パスポートと搭乗券を持って列に並ぶ。ゲートから入ってそこからいろいろ検査をする。
後ろがざわめいているが気にとめなかった。
「光!」
君の声が聞こえた気がした。
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