じゅうご
昨日、本当は同窓会まがいのものをするのではなく澪が私の誕生パーティーを計画してくれていたらしい。
これないかもしれないとわかっていもやろうと計画してくれた澪に私は感激して号泣しながら抱きついた。
時間ギリギリまですると解散。プレゼントまで頂いてしまった。先輩とか後輩とか、クラスメートとかでいっぱい。おかしいと思ったんだ。先輩とか後輩とか、いて。
『はぁー……』
荷物は輸送してもらうことに。多過ぎて持って帰れなかった。電車での帰りだったから。
始発に乗って家に帰ってきた。
家の前に佇んでいる黒い髪の長身の男性。
『……れ、お…………』
あの体を重ねてしまった日から会っていない彼が何故私の家の前にいるのだろうか。
もう大分征との不倫騒動は収まり、報道陣など私の家の前からは居なくなった。
「……光」
優しい笑。でも、いつもと違うのは悲しそうだということ。
ズキン、とその顔を見て心が痛んだ。その顔は私と同じ顔だったから。まるで玲央が鏡みたいで……とても嫌だった。見ていて悲しかった。
『れ……っ』
急に頭を下げたんだ。あの、プライドが高い玲央が。ありえないと思った瞬間耳を済まさなくては聞こえないような声が下から聞こえた。
「
ッごめんなさい…………」
『!!!』
「許してなんて言わないわ。でも……ごめんなさい」
『ぁ……頭をあげて』
「……」
そう言っても、彼は、頭を上げない。
上げてくれない。
言えることは一つだけ。
『どれだけ頭を下げられようが許せないよ?』
「!!」
玲央はきっとわかってる。わかっててそれをしてるって私もきっとわかってる。
『謝るのは少なからず許して欲しいと自分の心の中にあるから』
私は、狡い。
わかってるんだ。
気持ちよかった自分が、イってしまった自分が、感じてしまった自分をわかってる。玲央を責めるんじゃない。自分を責めなくちゃいけない。
『だから、ごめんなさい』
私はあなたに許して欲しいから。
友達だから、そうやって接してきたから余計に嫌だった。体を重ねてしまったのがとてもムズがゆかった。
「え……?」
『やっと顔、上げた』
「今、何て……」
やっと上がった顔に、玲央の綺麗な顔に私は平手打ちを思い切り入れた。そして、自分の顔にも。
それに目を見開く彼は実に滑稽な顔をしていた。
「っ……」
『痛っ……』
「何してるのよ……」
『謝らなきゃいけないのは私。だから、ごめんね。ごめっ』
ああ、また玲央を頼ってしまうかもしれない。こんなことしないで、止めて。その一言で済むのに口が動かない。
抱きしめたりなんかしないでって、言わなきゃ……でも、言えないよ。
「アタシはね、あなたが大好きなの。友達としても、異性としても。大好きなのよ」
『れ……お……』
「確かに、あなたが言う通り、許して欲しいの。また、前みたいに頼ってくれるかしら?こんなアタシを」
『っ……ぅ』
泣いちゃいけないから。堪えるために下唇を噛む。
『アナタの気持ちに気づけなくて、ごめんなさい。そして、応えられなくてごめんね。ちゃんと言わなきゃいけないから。だから……』
「わかってる。わかってたのよ。アタシはただ見たかっただけなの。貴方の心からの笑顔を」
心からの笑顔ってなに?
玲央の前で私は心から笑っていなかったのだろうか。そんな筈ない。
楽しい時は笑っていたはずだ。
「アタシが見たかったのはね、あの時の、征ちゃんとキスした時のあなたの笑顔。あれがきっと心からの笑顔だから」
高校三年生で、征と会って、その時に笑って。
でも結局幸せを私自身が壊してしまった。笑えなくしてしまったのは他でもない私自身か。
「好きよ。でも言っちゃいけなかったってわかってたの」
『ううん。言ってくれてありがとう』
玲央の胸板を力一杯押し返して彼の顔を見る。
『ごめんなさい。私は今でも……未練たらたらしく征が、好きだから』
精一杯笑った後に後ろから聞こえた地面を踏みしめる音。
アスファルトに靴がこすれる音。
私の後ろを見ていた玲央の顔が歪んだ。ゆっくりと体を後ろに向ける。
「どういう、事だ……?好き、って……名前も…………」
『嘘…………』
後ろに立っていたのは征だった。
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