真っ白なフィルム | ナノ


  きゅう


トボトボと車まで歩いて乗り込む。
鍵がなかなか差し込めずにイラつきハンドルを叩く。短いクラクションが鳴った。
言ってくれたら、なんて言えない。言ってくれたって何もできないじゃないか。私は未練たらたらしく征だけが好きなのだから。
新しい恋をしろ、そう玲央に言われた。でも、中々そんなことはできなくてずっと玲央に甘えていた。その行為が彼にとっては地獄だったんだと思うと目頭が熱くなる。
私は玲央の為になにかできたろうか?何もしてあげていない。できてない。
私は、最低な女なのだと改めて気付かされた。


『もう、頼れないよね……玲央のこと』


ポツリと狭い車内で呟く。その独り言に相槌を打ってくれるものなどここには居合わせていない。
寂しい、辛い。


ねぇ、玲央。私には無理だよ。諦められない。
好きなものに好きって言ったらいけないこと?玲央みたいにずっと抑えてきた。私は、もっと長い間仕舞ってきたよ?でも。やっぱり伝えなきゃいけないと思うんだ。








そんな決心をした矢先、家に帰ると私の家の前には報道陣で一杯だった。







『何、これ……』


クラクションを鳴らして車庫に車を入れる。車から出た瞬間報道陣に囲まれた。
今回、私は何かをしただろうか?記憶にない。


「赤司財閥社長との不倫現場が目撃されました!本当に不倫しているんですか!?」


「熱い抱擁!キスまでしていましたが、どういうことでしょうか!?」


待って……どうして、征の不倫相手になってるの?
キス?熱い抱擁?そんなの……


『そんなの、してません!』


気づいてしまった。あの公園だ。
昨日、抱きしめられたのは覚えてる。だが、キスまではされていない。
それよりも、腰が痛くて堪らないのだ。どいて欲しい。


『どいてください……』


「しかしっ」


鼻先で扉を閉めると急いでリビングにあるテレビをつける。
そこに映っていたのは征と香織さんだった。私のせいで征と香織さんに迷惑をかけている。
どうしよう。そんな時、携帯が震えた。マナーモードに設定していた為気づかなかったが着信がたくさん入っている。


メールに書いてあるとおりチャンネルを変えると私のことも書いてあった。
SNSアプリを開き、見ると私の写真と玲央、征の写真がupされており、そこには尻軽オンナと書かれていた。


『……山岸さん』


〈わかってるでしょうね?早く、来なさい〉


『はい』


うるさいのを覚悟して電話をしたのだが思ったよりも静かで冷静だった彼女はきっと静かながらに怒って心配しているのだろう。私の心配ではない。
私のマネージャーを続けていけるかという心配だと思う。


『さて、行くか』


取り敢えず、扉の前にいる大量の報道陣をどうにかするのが先手だ。


****


『遅れました……すみません』


「来たのね……こっちよ」


事務所の社長が椅子に座って足を組んでいた。当たり前ながら真剣そのものの表情だった。


「事情を、説明してくれるか?」


『はい。私はあの日――』


あの公園にいて、征とどうしてああなったのか。恋愛感情を彼は私に持っていないということ。不倫ではないこと。
全て話した。過去までも、話した。そこで玲央に支えられてきたことも。


「よくわかった。お前は実渕さんのこともあって色々目をつけられてる。だから、今は活動を停止しろ」


「っ、社長!今月からツアーがあります!それからでもっ」


「ダメだ。これ以上尻軽オンナと思われ評価が落ちては困る。落ち着くまで、お前は休憩してろ。働きづくめだったんだ。少し長めの夏休みだと思え」


社長は頑固、しかも言っていることは正しい。
社長が言っていることは絶対だ。だから、従う。だから、ここにいる。


『……はい。わかりました』


きっと山岸さんは違う人のマネージャーになってしまうのだろう。結構好きだったのにな。勿体無い。
夏休みか。そんなの、忙しくてないと思っていた。それよりも、ツアー中止は結構な痛手だ。私的にも会社的にも。


『ありがとうございました。では……失礼します』


そして私は今日からこの騒動が収まるまでなかなか取れない休暇を有効に使おうと思います。
マナーモードを解除していた携帯が音を鳴らした。







赤司征十郎







そう表示されていた。

prev / next

[ back to top ]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -