珊瑚の錯乱



ブーブー五月蝿いなぁ。携帯のバイブ、かな。


私はいつ昨日帰ってきたか。何故隣に虹村が寝ているのか。しかも二人共下着。まぁ、着けてただけよしとしよう。コンドームも何も落ちていないからよし。ただ、体がべたついて風呂入ってないことまるわかり。いや、確かに風呂に一緒に入ったのだったらば問題有りだが。そこら辺は自分でも少しは気にする。

「虹村ー起きてー」
「ぁあ?」

寝起きで掠れた声。いつもの声とは少し違う、低いドスの聞いた声だ。何故そこまでして怒る。私は起こしただけなのだが。

「お前起きたのか?」
「ぁー、うん」
「服ソファに掛かってるし床に落ちてる」
「了解」

芋虫のように布団の中に戻って行った虹村は少し可愛らしい。それから、こちらを振り返った彼は本当にイケメンの部類に入る。さぞかし大学でおモテになっていることだろう。

「荷ほどきは?」
「した」
「虹村が?」
「いや、お前が酔っぱらいながら」
「……後で経緯聞くよ」

伸びっぱなし放ったらかしのボサボサな髪の毛を無造作にかきあげ、大あくびをしてやった。しかし本当に眠たい。一体いつ帰ってきたものか。全く記憶にない。そんなに昨日私は飲んでいたか?いや、自問自答したって意味が無い。だって記憶にないからなぁ。困った困った。

「とりあえずまだ俺は寝るぞ……」
「朝飯は何か食うかい?」
「……お前作れんの」
「からっきしだけど、文句ある?」
「ねぇよ。それでよくルームシェアなんてしようと思ったな」
「ギリギリ洗濯はできるからそれしようと思ってた」
「バーカ」

ああ、そんなふうに笑わないで欲しい。

「酷いなぁ、君は。さて、起きるかな」

腕を天井に伸ばせば骨の軋む音が耳に入り顔を顰めた。虹村は既に目を瞑り眠ろうとしていた、が布団を剥いで起こす。

「あぁん?」
「うわ、低い声。どこから出てるのさ、その声は」
「うるせぇよ。他人の安眠妨害すんな」
「もう8時だぞ」
「は?」

他人にとってはまだ、だったかもしれないと今思った。言わなきゃ良かった。

「ご、ごめん」
「何時って?」
「え……8時」

ああ、阿呆ヅラ。
いきなりベッドから飛び起きた彼は机においてあった携帯を取り電話をかけた。彼の口から出た名前は『赤司』である。

「赤司か?悪い、寝坊した。いや、そりゃねぇよ。おう、あー今起きたんだわ」

そんな虹村の声は私が占めた扉によって耳に入らなくなった。しかし、虹村の言ったとおり私の服が床に散乱している。ジャケットやスカートがソファに掛けられているのは虹村の優しさだろう。
ストッキングやら肌着やらシャツなんてものは全て床。もうそれらを着る気などもちろんの事なくて、手に取って洗濯機の前に放っておいた。

「……どれが私の部屋だ。これかな」

虹村がドタドタと走っている中、私は悠長に部屋を探検。本当に、この部屋は広いし、今立っている一室だってそうだ。あまりにも広すぎるここは、私にとってはとても嬉しい空間だった。

「溝淵ー!」
「はいはーい」
「俺は今から朝練だから、家出る時はちゃんと鍵閉めろよ」
「わかってる」
「それからもし火を使うならちゃんと消したか確認する」
「……うん」
「それから、水も止めたか確認を」
「私は子供じゃない!それくらいできるわ!」

ならいい、その短い言葉にため息をついた。しかも私は大学に行く時くらいしか家、以前に部屋を出ないのだからそんな事言われずとも平気なのにね。

「とりあえず、行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい。気をつけて」

久しぶりに言ったその言葉が、何故か胸に沁みた。扉がしまってしまえばこの家はもう私一人である。何をしていても文句は言われまい。この部屋のすべての位置を把握して、それから絵を描こうかな。


  | top |  

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -