愛でたし愛でたし



スケッチブックに色をどんどん置いていく。


心地よい音と、綺麗なオレンジ。絵を描くにはとてもいい環境に私は思えた。
スケッチブックには青や橙、白や灰たくさんの色を置いていく。それが楽しくて仕方ない。好きな絵を、好きなだけ描くのはとても楽しいことだった。

「ふんふふーん」

夕日、海岸、絶好のその場所を描いていく。今度、コンクールにでもこれ、だそうかな。
キャッキャと子供とその親が歩いていく。楽しそうにパパママ!と声を上げる子供が実に可愛らしかった。私もあんな時期があった、そんな事を思いながら眩しい夕日を見つめる。

「はぁ、はぁ……ああああ、疲れた」

砂を踏みしめる音と、その声に振り返り笑ってしまった。汗だくで息切れしてる。そんなに必死に探してくれたのだろうか。

「やぁっと来たねぇ」
「おま、どんだけ探し回ったと思って!」
「はは、必死だ」
「当たり前だろうが!!探さないと、探さないとお前が……」
「私が何?」

スケッチブックを砂の上に置いて筆をその上に転がす。

「どっか、他のとこ行っちまう気がして」
「あはは、何それ」

体育座りをしている私の横に虹村がドサリと腰を下ろした。夕日側に二人して向く。綺麗だねぇ、そうだな、そんな会話を繰り返し沈黙が流れる。こんなに話したのはとても久しぶりに感じた。虹村が隣に座っていて、普通に話す。いつも通りの、日常。違うのは場所が家にあるソファじゃなくて砂浜、ということ。

「お前は」
「あのさ……私、考えたよ。虹村にいっぱい考えさせられた。恋って何、人を好きになるって何、ドキドキとか、苦しいとか、よくわからない」
「……あぁ」
「でもわかったことが一つだけある。どう頑張って納得しようたって虹村の隣に私じゃない誰かがいることを想像するとこう……うまく言えないんだけど、違和感しか感じなくて……」

あれ、視界が滲んで……

「ああ、私は……虹村修造が、好きなのかも、ってッ思、って」

人にこういうことを伝えるのってこんなに怖いのか。虹村もこういう気持ちだったのだろうか。だったら、避けられた虹村はどうだったのだろうか。私に思いを伝えて、私に避けられて、私はなんてことをしてしまったのだろうか。

「ごめ、ん……」
「なんで謝る」
「避けて、ごめん」
「それは、俺もだし何も言えねぇよ。それから」

―勇気出して言ってくれてありがとな、溝淵

いつの間にか彼の腕の中で泣いていた。安心したのか、彼のそばにいれるからか、それは私にもわからない。でも一番は、嬉しかったからかもしれない。

「これからも、虹村の隣りにいても、いいか……?」
「当たり前だろ」

それから二人でなにかするわけでもなくただただぼぅ、と水平線に沈んでいく太陽を見ていた。
その沈黙に耐えられず、口を開く。

「恋人って、何するの」
「これでいいんじゃないか。隣りでぼぅ、として二人でいるの。溝淵は何かしたいのか」
「別に。これでいい、私はこれがいい」

彼の方に頭を傾け、凭れる。まだ人を好きとか、わからない。だけど、これが幸せなんだという事は微かにわかる。小さい頃に親と砂浜に来て走り回った時も幸せだった。好きな人たちといるのが幸せ、それは私にだってわかる。だから、今幸せなんだ。

「虹村ー」
「ん?」
「ありがとう」
「何に」
「全部!」

虹村の正面に立ってキョトン、とした顔をした彼に飛びつく。当然二人して砂浜の上に倒れる。

「っつ……溝淵、何して」
「何度も虹村に助けてもらった。感謝し切れないくらいだ。本当に、ありがとう……好き、だよ」
「溝淵、お前……はは、そうか。俺は、お前を助けれていたか?」
「当たり前だ!」
「俺、ずっと考えてた。お前の傍にもっと近寄れたら言えたのかなって。頑張んなくていい、無理しなくたって強がんなくったっていい、頼れって。ずっと言いたかった」
「ッあぁ」
「だから、少しずつでいい。お前からも歩み寄って来てくれないか」
「本当に虹村?」
「お前なぁぁ……」
「冗談、虹村がそんな事言うとは思ってなくてね。……勿論だよ、虹村」

家に帰るまで、電車の中でさえも、手を繋いでいた。誰かとこんなふうに手を繋いだのは久しく感じる。ただ違うのは指が複雑に絡まっていることだ。


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