さらば優しい人魚姫



あれから家に帰って、虹村を避けてしまうようになった。


別に好きで避けているわけじゃない。ただ、顔も合わせづらく唯一の救いが生活時間が少しずれていることだろうか。起きる時間は私の方が遅いし、昼は帰ってこない。夜は帰ってきてもご飯を食べてすぐに風呂に入って寝てしまう。おそらく私たちふたりして避けあってるんだと思う。生活時間だって変えられたのだと思う。それに、今までは起こしてくれていたのに起こしてくれなくなったのが、朝私が遅い原因だ。

「どうしたらいいものか……」

【恋】というものの類をしたことがない私にとってはあんな経験初めてだし、それに虹村とこんなふうにすれ違ってしまうのも初めて。
どうしたらいいかなんて、わからなかった。

「あああああ、どうする、私」

頭を抱えれば頭まで上げた手が水入れに引っかかり紙の上に盛大に水がこぼれる。まだ描いてなかったため良かったけど紙が無駄になってしまった。勿体ない、そんなことを思いながらドライヤーで乾かしてみるがふやけたまま元には戻ってくれない。

「はぁ……」

こんなふうに、私たちの関係もふやけたまま元に戻らなかったらどうしよう。

「……赤司に聞こう。赤司……赤司……あか、あった」

赤司の電話番号を引っ張りだし、連絡をとろうと画面をタップする。しかし、何コールかなって留守番電話に切り替わってしまった。虹村を知っている人がいいと思い電話番号を漁る。
青峰は却下、緑間もダメ、紫原論外、黄瀬は忙しいし黒子は、毒舌で素直で率直にものを言うからパス。じゃあ、さつきは。ダメだ、絶対電話終わらなくなる。

「玲央は……」

最近あったばかり、彼も虹村を知ってる。いつも何かしら相談があって赤司がダメなら玲央を頼っていた。もちろん真っ先に玲央を頼った時だってあった。

「玲央……出ろ、出ろ、で……った!」
『は?何?た?』
「あああ、何でもないの今いい?」
『いいわよー、ちょうど今打ち合わせ終わったとこだし』
「あ、そっか。玲央今先輩の」
『そそ。で、何?何かあった?修ちゃんと』
「……玲央にはお見通しってか」

椅子から立ち上がりベッドに倒れ込む。ギィ、とスプリングが軋んだ。

「何かさぁ……私わかんなくなって」
『うん?』
「恋とか……全然わかんなくて」
『……うん』
「避けられる避けるとかあまり今までなくてさぁ……」

うん、うん、そう相槌を打ってくれる玲央は優しい人。赤司だったらいつの間にか黙ってそうだ。そして何かしら嫌な言葉が飛んできそう。

「好きって、何」
『……あんた、初恋は?まだなの!?』
「驚くところ?」
『そりゃそうよ!あんた、だって、もう……!』
「何?年齢?そうだよ、彼氏いない歴=的なのりで初恋したことない歴=年齢だよ!21になるけど!?」

人間恋なんてしなくても生きていける。そんなことを言ってため息をつく。肺の中にある空気が一気に出た感じがした。苦しくて何かがつっかえていたものが抜けていく、そんな感じがした。

「はああああ」
『難しく考えなくていいわよ』
「無理」
『あーのーねー、あんたはいつもいろいろ変に考えすぎなのよ。そんな変に考えずに直感でもっと動きなさいよ。いつも直感で動いてんのにこういう時だけ動かないの、やめたらどう?』
「れ、玲央……、い、痛い言い方が痛い」
『馬鹿』

優しい人なんて嘘。今日の玲央グッサリ来るわ。
それから、何故か軽く罵られること数十秒。

『あー、言った言った』
「何、今の。私がズタボロに言われただけじゃん。そうじゃなく、私はどうしたらいいのか聞きたいんだ」
『どうしたら?そんなの自分で考えなさい。アタシはあなた達が今までどんなふうに過ごしてきたかなんて、何も知らないわ。でもね、そんなことずっとは続かない。どちらかがアクションを起こさないと終わっちゃうわよあんた達』

終わる。
その言葉に息を飲んだ。そんなこと今まで考えたことなんてない。終わりなんて、考えたくなくて、知りたくなくて考えないようにしていた。

「そんなわけない」
『じゃあ、あんたからなにか起こしてやりなさいよ。よく言うわ、好きの反対は?知ってるかしら?』
「嫌いじゃないの?」
『……無関心よ。そんなに相手のことを考えてるなら……わかる?』
「……わかんない」
『そ。それ以上は自分で考えなさい。じゃあね、もう講義、始まるから』

プツリと消えたその音に携帯をインターネットに接続し『好き』という単語を調べてみた。
「心が惹かれること」「気になること」「片寄ってそのことを好むこと」「自分の思うままに行動をすること」、そんなことが出てきた。ついには好きになるって何、そんなサイトまで出た。
みんな、わかんないんだと思う。好き、ということを具体的に説明しようなんて無理な話だ。LIKE??LOVE??違いは何。

「セック……!?はぁ……そんなもんか、世の中」

女性はLIKEではセックスできない、と書いてある。という事は虹村とできるかできないかで考えてみたが考えたくなかった。そんなの、無理だった。気持ち悪いとさえ思った。

「LIKEでもLOVEでもないのか、私は」

考えていてもわからない。
次に見つけたのはその人の隣に自分以外の人がたっていても許せるのか、何も感じないのか。そんなことだった。

「……イヤ……なのか、私。何か、モヤモヤはするな」

何か違和感を感じたらあなたはその人が好きかも知れません。

「いーや、常日頃一緒にいる人の隣に違う人たってたら違和感ありありだわ」

何調べてもどうにか否定していく気がする。

「あああああ、一回落ち着こう」

でも多分、本当はわかってる。わからないフリをしているだけなのだ。知りたくないだけなんだ。私はきっと。

−私はどこでしょう。探してみてください

その紙を机の上に置いて玄関の鍵を占める。そして携帯の電源を切った。


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