やっと、本物になる



ファミレスの店員が運んで運んできてくれたのは私の頼んだハンバーグとライスだった。


「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞー」

久しぶりにハンバーグを食べる気がする。虹村が作るものは大抵あっさりしていてヘルシーだ。美味しいのだけれどもたまに重たいものも食べたいと思う。しかしまぁ、そんな事言ってしまったら自分で作れとフライパンやら何やらすべて投げられてつくれと言われてしまうから言えないけど。

「うま」
「おー。ファミレスたまにはいいな」
「虹村はあんまりファミレス行かないの?」
「まぁ、あんまだな。ココ最近入ってねぇし」

ハンバーグあっつ。口の中絶対火傷したわこれ、メチャ痛い。

「水、いるか?」

どうして彼そんなことにまで気づくのだろう。私のプラスティックのコップの中には水が入っていたが今はカラだった。ついさっき飲み干したからだ。ありがとうと素直にいえば虹村は私のコップと自分のコップを持って立ち上がった。
時計を横目でちらりと見ればもう22時を回っている。この時間から帰るのは辛い。

「このあとどうする?」
「帰るか?」
「だるい」
「だよなぁ。近場にホテルかなんかあるか?」
「待って調べる」

インターネットで調べればいくつかヒットした。最近は便利なものだな、インターネットとは。調べたいものを打ち込めばすぐに出る。

「ツインでいい?」
「は?」
「一緒に住んでるし変わんないでしょ」
「いや、なんかちがくね?」
「いや?ぜんぜん」

電話して三本目で、空いている部屋を発見。この時間から空いているのを探すのは意外と一苦労。三本もかけるハメになるとは。一本目で行けるものだと。

「歩いて30分。遠いな」
「え……私の聞き間違い?他の交通手段は?」
「バスが出てるみたいだけど、この時間だ。出てないに決まってるだろ」
「タクシーは?」
「金が無駄。いいだろ、歩いてけば。何、お前歩けないの?」
「疲れた。おんぶ」
「馬鹿か」

頭を叩かれて笑われた。金を払い、二人並んで歩き出す。運動靴バンザイ。これでヒールだったら最悪だったな、足が痛くなって歩けなくなっていただろう。

「ふぅ、食った食った」
「溝淵、お前もうちょっとおっさん感抑えられねぇの」
「抑えたじゃん。腹叩かなかった」
「そこじゃねぇよ」

二人で並んで笑って道を歩く。ぶらりぶらりと歩いて、時たま携帯の地図を見て引き返す。そんなことを繰り返して、いつの間にかビジネスホテルに到着していた。鍵をもらってベッドにダイブする前に風呂に入れと言われてしまった。トボトボと風呂場に向かう。コンビニで下着類は買っていたため今日はそれを使おう。服は仕方ない、風呂場で洗って干しておいた。

「お先ー」
「おー」

虹村が腰掛けているベッドにダイブして彼の背中をつつく。

「あぁ?」
「あー、怖い。何さそんなに怒って」
「お前さぁ」
「何」
「危機感ちっとは持て」
「……は?」

今更、そんなことを言おうと口を開こうとしたが大きな手のひらがそれを塞いだ。虹村の体で光が遮られる。頭の横についている手のせいで頭がシーツの上を少し滑る。いつの間に、こんなに近い距離に彼はいたろうか。鼻がくっつきそうだ。自分が今どういう状況にいて、何をしているかわからなかった。
この掌がなければ、私たちは今何をしている。

「な、に……して」
「俺は多分中学からお前をそういう目で見てた。気づいたのは最近だけどな」
「何言って」
「そういうことだから、ちょっとくらい危機感持て。それから、俺はもうお前とバカしてた虹村じゃねーよ」

掌がなければ、キスをしていただろう。
顔が熱く火照った。


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