水平線を掴め



虹村、本当にごめん。迷惑かけました。


そう言って頭を下げたのは言うまでもない。虹村は手短に話をしてくれたが、そのおかげで少しずつ記憶が戻ってきた。どんな醜態を私は晒したかったのか。

。。。

「いやぁ……あはははははは」
「怖いから。意味わかんない事で笑うな」
「にじむーの背中は広いなぁ」
「撫でんじゃねぇよ」
「身長も伸びたね」
「頭触ろうとするなよ、転ぶ」

2人して同じ帰路を歩く。まぁ、ふわふわと体が浮くような感覚がするのはきっと酔っているからだ。酒を飲みすぎたかな。
それに、ヒールまで履いて歩き辛いのは当たり前だ。

「にじむーや」
「もうその呼び方には突っ込むのはやめる。ただ、何で手を繋いだ」
「転ぶ」
「あー……察し」
「うん。歩くの面倒い。おぶってくれないかな」
「俺が恥ずかしいだろうが、それ」

でしょ、そう言って力を込めれば虹村も握り返してくれた手。きっと、虹村も酔ってる。手が子供体温みたいだ。私よりも暑いんだから相当だろう。
傍から見たら、恋人みたいに見えるだろうか。

「これも恥ずかしいけどな……」
「あはは。だね」
「まあ、お前が転ぶよりいいだろ」

こういう優しいところは、変わってないんだね。大きくなった身長もその広くなった背中も逞しくなった腕も、全部変わった。でも、中身は基本昔の虹村のまんま。外見だけが変わってて、中身は同じだ。そりゃ、大人っぽくなったけれど。
それに少しだけ、昔よりも明るい。気がするだけだが。

「いや、しかし駅から近いねぇ。しかもオートロック式マンション21階。その時点で怪しまなきゃいけなかったか」
「だな。俺も広めの部屋と家賃に惹かれたからな……仕方ねぇよ。とりあえず、どっちかが家見つかるまでの辛抱だな」

拱きながらそういった彼はネクタイを緩めた。またその姿が様になること様になること。イケメンとは恐ろしい。
それよりも、彼が言ったことが問題だ。

「え、にじむー出てっちゃうの?」
「は?」
「え、私をこんな広い部屋に置いていくのかい?」
「待て、お前酔ってるのか言ってることがおかしいぞ」
「ひどーい」
「本当に思ってんのかよ、その言い方は」

ストッキングを脱いで、セットしていた髪の毛を崩す。開放感が半端なくてすっきりした。

「それから、日本の女子が何男の前で脱いでんだよ」
「え、日本はダメなの」
「ダメだ。アメリカじゃあ普通だったからなんも思わねぇけど、脱ぐな」
「差別はんたーい。ふぁあ……ねっみぃ」
「……お前本当に女か」
「女女」

ストッキングにジャケットを脱ぎ捨てて、シャツのボタンを第二ボタンまで開け、髪の毛を無造作にまとめる。馬鹿でかい欠伸をかまし、ソファにダイブ。
スカートめくれているのなんて気にもせず、足をばたつかせる。

「スカート。パンツ見えてんぞ」
「いいのー」
「それは、女としてどうなんだ……」

風呂先入るぞ、その言葉に曖昧にうなづいてボタンを外し、スカートのホックを外してチャックを下げる。

「ああ、もう!暑い!ベッドどこだー」

スカートとシャツまで脱いで下着オンリーになってそして何故か虹村のベッドにダイブ。一番この部屋が近場でベッドがあったからだろう。そして、虹村がいざ寝ようとした時には私がベッドにいたらしい。そして、ゲラゲラ笑いながらベッドに引きずり込まれたのだとか。

。。。

「もうほんと、ゴメン」
「言わねぇほうがいいと思ったんだが」
「ここまで来るともう嫌になるな……本当にゴメン。酒は控えるよ」
「ああ、そうしろ。俺のためにそうしてくれ」
「はい。……いつもはあんなに飲まないんだけどね。虹村たちがいてつい、ね」

キッチンから水の流れる音や何かを炒める音がする。私も、料理は覚えた方がいいだろう。料理、といってできるものと言えばお湯を沸かして湯を注いで3分待つあの某有名インスタント食品なら作れる。

「溝淵ー、皿出してくれ」
「はーい」
「サンキューな」
「いやいや、私こそ申し訳ないよ本当に何も出来ないからねぇ」
「ま、今から覚えてったら?」
「そうするよ」

サラダに生姜焼きに味噌汁にご飯。美味しかった。女として悲しくなるほどに。私は正直プチトマトのヘタをとってレタスをちぎっただけだ。味噌汁ってどうやって作るの、レベル。

「美味しいよ」
「……ならよかった」

子供みたいな笑顔。その笑顔を見て顔が熱くなった。なんで熱いの、顔。ずいぶん昔に少しだけ感じていた感情に近い。顔熱いのに胸が痛い。
よくわからないソレを隠すために自分で切った分厚いきゅうりに箸をぶっ刺す。分厚いからか、いい音がした。


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