人魚の泡のシャボン玉



お前は一人で抱え込みすぎだよ


そういって頭を軽く叩いてきた幼なじみは椅子に座るように促してきた。虹村は隣にはいない。部屋に入ってもらったと、赤司に先程聞いた。

「伊織、俺は君が大切だ。ずっとそばにいてくれた大切な人なんだ」
「え、いきなり何。デレ?」
「そういうバカなところは苦手だが」

マグカップを飲む彼は笑っていた。
確かに思えば私は彼と、赤司征十郎とずっといる気がする。幼稚園小学校と来て中学高校も同じ、大学も一緒だ。腐れ縁なのか、仕組まれているのか。それは定かではないが、ずっとそばにはいると思う。

「だけど昔から思うよ。俺もお前も、いろいろ自分で溜め込みすぎなんだ」
「……」
「少しは頼ってくれないか。俺も、虹村さんもいる。桃井や玲央もいる」
「……うん」
「玲央からはいろいろ聞くよ。今日のファッションセンスがどうだったとか何色が似合うだとか、そんなことだけれどね」

俺は、そういって口を閉ざしてしまった彼は何を言うのだろうか。続きをいうために開くであろう口をじっと見る。

「ずっとお前に頼って欲しかった」

なぜそんなことを言うのだろうか。みんなしてなぜそんなことばかりを言うのだろうか。何年前のことだろうか。母親だった人に人を頼るのはかっこ悪いことだと言われ続けたのは。もう昔のことだ忘れてしまった。けれど洗脳された私の脳みそはそれを覚えてインプットしていたらしい。賢い脳みそである。

「バカ、だなぁ。こんな面倒くさいヤツ、放っておけばいいんだよ」
「そうもいかないだろう。大切な人は誰だって放っておけないさ」
「私はアノ人と話したいよ。けど、戻りたくなんてないんだ」
「それを言ったらいい」
「言っても意味ないかもしれない」
「それは俺にだってわからないさ。でも、言ってみなきゃわからないだろう」

目の前で笑顔を浮かべている幼馴染にかつて私は同じようなことを言ったことがある。言ってみなきゃやって見なきゃわかることもわからないだろうと。そうだ、あのWCの前日にそう言った。赤司が別段うじうじしていたわけじゃない。ただ、あの時の赤司じゃなくて赤司征十郎に私は言った。

「当たって砕けないように俺がする。虹村さんも、お前を助けてくれる。頼ればその分お前を支える。だから、自分が思うようにしたらいい。お前が言ったんだよ、泣きたい時に泣けばいいと笑いたい時に笑えばいいと」

今日は大雨の日らしい。
少しだけ塩味のするであろう雨が手のひらに降り注いだ。


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