その愛に抱きしめられて



私は結局親に縛られて生きていくのだ。


もともと、幸せだった。人生が狂い始めたのは父親が死んでからだ。
その時に母親が狂った。あの人は私を父の代わりとしか見なかった。所詮私は道具だった。唯一の救いは赤司と虹村だけだった。
中学の時、虹村とバカしていたから救われた。つるんでいたのが真面目な人間だったりしたら私はとっくの昔に壊れていただろう。いや、虹村といても壊れたのかもしれない。

「……やだ、な」

赤司が来て虹村に話しているのはもうわかっていた。おそらく私が話すよりもより難しく詳しく話しているのだろう。あんな家戻る気なんてなかったのに。

「は、ぁ」

なんか自然に涙なんか出ちゃってさ。一番こういう状況見られたくなかった人なのに、なんで見ちゃうんだろうね。なんで知っちゃうんだろうね。どうして

「弱いところ、ぜーんぶ虹村に見られてる」

本当に嫌になる。
なぜこんなに嫌な気分になるのかはそんなのわからない。でも多分ずっと一緒にいて私の綺麗な部分だけを見てくれて一緒にいてくれたから。私の汚い部分なんて知らなくていいのに。見せてしまう自分が本当に嫌だ。

「溝淵……聞こえるか?」

ノック音と少し掠れた声が耳に入った。汚いかもしれないが鼻をすすり、涙をこする。鼻声だろうからノックを内側からしてやった。

「何だよそれ、話せねぇの」

心なしか、虹村の声が優しかった。それが逆に嫌だった。いつも通りでいい。こんな、子供をあやす様な話し方なんて嫌だ。

―コン

「ばーか」

―コンコン

「あ?いいえかそれは。お前、本当に馬鹿だな」

ああ、元に戻った。それでいい、それがいい。

「赤司に、聞いたわ。正直難しくてわかんねぇからさ、やっぱり俺はお前から聞きたい。待ってるって約束するよ。赤司のは不可抗力ってことにしておいてくれ」

―コン

「お前鼻声で今話せねぇんだろ。それくらいわかってるからさ、話せよ」

ノックをしようとして上げていた手を止める。何故そんなことまで分かってしまうのだろうか。これが普通だったら世の中の男は末恐ろしいな。

「虹村は何でもわかるんだな」
「わかりたくもねぇよ」
「ぐずっ。その言い方は酷い」

ティッシュを箱から抜き取り鼻をかむ。向こうから笑い声が聞こえたものだから壁ドンならぬ扉ドンをしてやる。それが余計に面白かったのか、ゲラゲラと笑っている彼のおかげかせいかはわからないがシリアスな空気なんてクソ喰らえほどにどこかへ行ってしまった。

「お前、それ他の男の前でやったら引かれるぞ」
「世の中の妻は夫の前で鼻をかまないのか」
「いや、かむけど。多分それはいろいろ許した夫婦だからできることであって……あー」
「……どーした」
「いや、何でもねぇよ。そんなことよりさ」

大方赤司から聞いた話で夫婦の話を打ち切りたかったのだろう。そんな気を回されるのが嫌だったから学校側にも伏せるように頼んだし、友人に聞かれても全部シラを切っていたのに。今更だな、本当に。

「本当にお前は家に帰りたいのか」
「……」
「俺はお前の本心が聞きたい。お前の思った通りのことを言え」
「言ってどうなるのさ。何も変わらない、虹村何かには何も変えられない」
「それでも俺はお前の言葉が聞きたい。お前を助けたい」

巫山戯るな、と怒鳴りたかった。
何も出来ないくせに、助けたいと言いながら何も出来ないことくらい虹村にだってわかっているはずなのに。どうしてそんなに軽々しく口に出来たのだろうか。
でもそんな疑問を持って怒鳴る前に、その言葉が何よりも嬉しかった。実現不可能な事だとしても、そういうことを勇気を持って言ってくれたことに感謝した。

「……た……い」
「聞こえねぇよ」
「行きたくないッッ!」

扉が開き眩しい光に目を細める。

「わかった。だから、行くな。お前の家はここだ」
「あんた、それ……好きな人が、できたらッどうすんのさぁ……!」
「その時はその時だよ!」
「ヤケクソかよ!」
「いいんだよ、今はそれで」
「バカ」

虹村の腕の中はとても心地が良くて落ち着いた。


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