血なんてみたくなかったのに



こいつが泣いてるの見るの、二回目だったか。


そんなことを思いながら立ち尽くして泣いている溝淵に手を伸ばす。

「ごめ、なさ……ごめ、さ……ッ」
「もういい、俺は平気だから」
「う、そ……血、でて……」
「落ち着け。溝淵!」
「ひっぅ……せ、じゅ……ろ」

―征十郎
肩をつかんで揺さぶれば溝淵の口から出たのはここにいないはずの赤司の名前だった。いつも名前じゃなくて、苗字呼びなのに何でこんな時だけ名前なんだよ。何でここにいない赤司のことを呼ぶんだよ。

「あー……クソッ」

馬鹿らしい事考えてる場合じゃねぇわ、これ。
ポケットに入っている携帯で赤司に電話すればもう着く、と帰ってきてすぐ切れた。タツヤももう着くとのことでおそらく二人共がこの状況に直面するわけだが、タツヤにはどう説明したらいいものか。まぁ、そこら辺は聞くような野暮なヤツじゃないから大丈夫か。

「溝淵、部屋はいるか?」
「う、ん……」

もう目を、見ようとしない。
顔を一向にあげようとしない溝淵にイラついた。何でこんなことに俺が巻き込まれなきゃいけねぇんだよ。
ここに2人ですんでもう半年経った。本当にいろいろあったと思う。喧嘩もすりゃ殴り合いに発展しそうなものまであった。女を殴らないというポリシーを持ち合わせているため俺が一方的に殴られることになるのだが。そんなの嫌だっつの。

「なぁ、溝淵」
「……」
「待ってる」
「?」
「お前が自分から話してくれるの、待ってっから」
「……」
「ゆっくりでいい。泣きたいなら泣け、赤司に目一杯甘えろ」
「……ふ、ぅ……ッ」
「ほら、部屋いけ。赤司来たらそっち行けるようにすっから」



「虹村」
「あー?」
「待ってるから」
「何が」
「アンタが帰ってきてまたバカするの、待ってるから」
「……あっそ」
「そうだよ!待ってっから、泣きたい時は泣け!泣かないと壊れるぞ」
「はぁ?お前何言って」
「心配、してやってんだろー。待ってる。じゃあな!」



昔の話を思い出した。卒業式、呼び止められてこう言われたんだ。ずっと待ってると言われた時、俺は確かに一瞬だけ行きたくない、という思いが出てしまったんだ。それと、目の前で笑っている溝淵を抱きしめたいという衝動にも駆られた。
馬鹿、してんじゃねぇか。今までずっと一緒にいて、スッゲェ俺達馬鹿してる。

『ありがとう』

あの時の俺も、目の前の溝淵も、同じだ。
インターホンが鳴り、赤司かタツヤが来たのがわかった。画面を見るにおそらく二人ともほぼ同時についたのだろう。二人して画面に映っていた。

「今開ける」

やっぱりあいつが泣いているのを見たのはこれで二回目だ。


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