鉄の翼で空を翔る



お前、誰だよ。


そう言って私の顔を指さす虹村を殴ってやりたいと思ったのは許される思いだと思う。

「髪の毛マシにしてちょっと化粧してちょっと服着ただけですけど」

そう、髪の毛を綺麗にわざわざ櫛で纏めて、化粧だって少しはした。そんなしたって言っていいほどはしてないけれど私の中ではしたし。服装だってあの絵の具だらけのエプロンは玲央にいつもなんて言われているか。乞食!?と聞かれた過去を持つ素晴らしいエプロンなのだ。いや、褒められてないけれど。

「いや、悪い。いつも顔隠れてたからよ。わかんなかったんだって」
「その頑張って我慢してるけど我慢しきれない笑いをどうにかしろ」
「ごめんって。あーもうむり」

息を吐くようにして笑っている虹村を横目に少し後悔。こんなことになるくらいならやめておけばよかった。

「そっちのがいいよ、お前。絶対」
「は!?」
「いつもボサボサだしさ。切ったりとかはしねぇの」
「……しない。切るの好きじゃない」
「でもお前いつも絵描いてるときの頭すごいよな」
「うるっさい」

絵描いてる時なんてそんな髪型にまで気を回してないし、伸びきった前髪を様々なところで止めているだけ。髪の毛は輪ゴムで束ねているだけだし。いや、最近は玲央に髪ゴムを貰ったし、自分でも買ってちゃんとそれでくくっている。そこまでずぼらにならないでと泣きつかれた結果だった。

「いやしかし、人間髪の毛って大事なのな」
「本当にね」
「ぶふっ」
「さいてー」
「悪いって。なんか、いつも見慣れてる溝淵じゃねぇから焦るわ」
「意味不明」

でもまぁ、玲央ちゃんプロデュースなので似合ってないってことはないはず。だから堂々としていればいいんだ私。虹村がゲラゲラ笑っていようが変な目で見てこようが気にしない。そう、気にしない。

「いい加減にしてよ。ほら行くぞ」

溜め息を漏らして鍵を彼の手から奪う。

「しかたねぇなぁ」
「そういいながらきてくれる虹村が好きだわぁ」
「はぁ?」
「何」
「そういう事言うなって簡単に」
「は?じゃあ何て言うんだよ」
「いや、もういい」

話ふっかけておいてそっちから切るとか酷いわ。頭抱えてため息を疲れたものだから私がつきたいとどつきたくなったがそういうのはもうなしにしておこう。

「何買うんだよ」
「何だと思う」
「あー、服?」
「このあいだ買った」
「家具」
「そんなん」
「ふーん」

そんな事知ってどうするんだ。そんなことを思ったら案の定興味なさげな声を上げた虹村。マジでこいつ殴ってやろうか。そういう興味の無いことを聞くなよ、受け答えが面倒くさいじゃんかよ。
買うものは様々で、収納するためのカラーボックスとか大きいものが多い。そのためそれを買ってからなにかほかのものを買う、というのは正直きつい。配送でやろうかと思ったがすべて配送になると金がかかってくる。無料のところもあるが買ってすぐ使いたいし、虹村に付き合ってもらおうという魂胆だ。

「あ、お前さ」
「何」
「今度料理教えっから」
「え、何で」
「お前そのままだとひとりでやってけねぇぞ。せめて卵料理だけでも覚えろ」
「卵のカラってさ料理に入ってても差し支えないよな。戦時中なんか食ってたもんな、ふりかけ的なノリで」
「自分で食え。不味いから」

卵料理と言われて頭をよぎったのは自分の好きな卵焼きと目玉焼きとオムライスである。好きなものは好きだがそれを自分で作ろうと思ったことは一度もない。

「ガリガリするだけだろ」
「舌触り悪いからな。噛み砕いた後の後悔はすげーぞ」
「何それ……やったことあんの」
「アメリカにいた時に友達んちで出てきたやつに入ってたんだよ」

思い出したのか苦い顔をしている虹村を見て相当不味いのだろうと思う。虹村大概何でも食うし。しかしそれにしてもそんなに不味いのか。そこまで不味い不味いと言われるとやってみたくなるのが人の性というやつだろうか。

「やんなよ、お前」
「やるわけないだろー、やらんやらん」
「作ったら次の日お前の嫌いなもんばっかり並べてらやる」
「絶対やらないです」
「ならいい」

ご飯を作るのが虹村で、嫌いなものは熟知されている。かと言って出されたら食べれるかと言ったら食べれるわけがないし、それに食べれなくても自分で作れば、なんてことが出来ないのだからそういうしかないだろう。美味しいものを食べたいのだ。

「で、どこまで行くんだ」
「近くにショッピングモールあったはず。バスで10分くらいのとこ」
「あー、あそこな。まだ行ったことねぇわ」
「私も初めてだ。まぁ、ちゃんと調べたし安心して」
「珍しいこともあるもんだ」
「何だって?」

時間を三分ほど過ぎたところでバスが到着した。バスってそんなものだ。電車と違ってよく遅れてくる。そして謝罪を流さないのなんて日常茶飯事だろう。この前30分待ったがその時も何も言われなかった。クソ、と何回悪態をついたことか。

「トーゼンのように隣に座るのな」
「なんか都合悪いのかよ、お前は」
「いや全く?虹村のが都合悪そうですけどね」
「残念ながら全くだよ、んなもんは」

バスケと親父で、なんていう彼は通路挟んだ向こう側の窓の外を目でおっていた。


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