さざ波の蹂躙



「虹村?」
「溝淵?」

同窓会であった彼は、何年ぶりにあったか分からないほど、離れていた人でした。


「いつ帰ったの?」
「あー、大学入る前くらい?」
「そっか。いやー、懐かしいや。イケメンだったのが更にイケメンになって帰ってきたねぇ」
「お前もよくそんな恥ずかしいことが今も昔も言えたもんだ」

背中を叩いてやれば咳き込むその姿が懐かしくて、頬が緩む。周りでどんちゃん騒ぎをしている懐かしい仲間。でも、その仲間たちの中で彼に会ったのが何よりも嬉しい。こんなにも人に会って喜んだのは、いつぶりか。

「あー、そういやお前どこ住んでんの?」
「え?ああ、大学の近くのマンションに今日から住むよ。結構安くて部屋いっぱいで広い。しかも便利な場所にあったからさー。何でそんなこと?」
「いいから。それって、駅の近くとかか?」
「おお、良くわかったねぇ」
「ちなみにかなり安いんだよな」
「そそ」
「その訳は?」
「ああ、ルームシェアするんだよ。今日から住むんだけどさ」
「……ああ、頭いてぇ」
「んん?酒の飲みすぎかな?」

真っ青な顔をして頭を抱えた彼は一体どうしたものか。彼の気も知らず、手に持っていたグラスを彼から取り上げ机の上に置く。それから、椅子まで誘導した。

「ほい、水」
「お前さ、その部屋借りた時、相手の名前確認しなかったのか?」
「してない」
「しろよ、バカ!」
「ぎゃ!んな怒鳴んなくても」

頭上から降ってくるその大きな声に耳を塞ぐ。同じ目線になろうとしゃがみこんだ自分が馬鹿だった。

「……俺だよ」
「はい?」
「だ・か・ら!お前とルームシェアするのは俺!」

不動産屋に二人して電話をかけたのは言うまでもない。二人でかけても繋がらないのに、同じ名刺に書かれている電話番号に掛けている姿は実に滑稽だっただろう。
しかし、繋がらない。片側が電話をするのをやめても繋がらない。さて、そこで行き着いたのがこの会話である。

「虹村、昨日か一昨日、もしくは最近とある人から電話かかって来なかった?」
「おう、かかってきたな。それって」
『赤司!』

そう、元はと言えば彼からの電話が始まりだったのだ。大学に近い安い物件を探していた時に幼馴染兼後輩の赤司からの突然の電話。何かと出てみればいい不動産屋を紹介しましょうか、である。まぁ、彼のことだから信じてみれば本当に安くていい物件だったのでそこに決めたわけだが。

「あ?赤司か?お前、この間の話どういうことだよ。……はぁ?何のことだぁ?とぼけんな。何で俺が溝淵と同じ部屋に住まなきゃなんねぇんだよ」

その言い方はその言い方でかなり傷つくんですけど。私意外と繊細な乙女のハート持ってるんだからそういう言い方はやめておくれよ、虹村。

「覚えてない?……おい、溝淵通話履歴見てみろ。そこに赤司がいるはずだ」
「えっと、待ってね………………あれ?」
「あったか?」
「え、怖い怖い怖い。ないんだけど」

あの日、酔ってたか?いや、そんなことない。その日は必死でキャンバスの前に座って筆を動かしていた記憶がちゃんとある。もちろん電話がかかってきた記憶も。

「……ないそうだ。何した?何もしてねぇわけねぇだろ。ったく、で?本当の目的は?」
「うそ、リアルに怖い。私の携帯に何したんだ、赤司さんや」
「だぁぁああ。もういい、また今度掛ける。いきなり悪かったな」

こちらを振り返ったときの虹村の顔はすっごく怖かった。いや、それはもう怖かった。
携帯に起きた怪奇現象、といってもきっと赤司が何かしたんだろうけれど、それよりも怖かった。

「とりあえず、帰ったら荷物ほどくぞ」
「ほーい」
「ったく、前の家引き払うんじゃなかった。お前の方は?引き払ったか?」
「うん、引き払ったよ」
「……しゃあないな」
「だねぇ」

かくして私たち奇妙な二人の生活が始まろうとしていたのです。

「俺を奇妙な枠に入れんな」
「いたっ。叩かなくたっていいでしょうが」

頭を叩いた彼を睨みつけてグラスに入っていたワインをクイと飲み干した。


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