振り返れば花



ふふ……

「あ、赤司くん?」
「さつき、諦めよう。もうこれは無理だ」
「だ、大ちゃんがすみません!」

壊れたように、しかも妖艶に笑う幼なじみは本当に私の幼なじみなのだろうか。
桃井さつき、私の後輩である彼女が頭を下げたのには理由がある。
事の発端は青峰大輝という悪ガキが赤司に差し出した飲み物にあった。かるーい酎ハイである。そこまでは良かったのだ、そう、そこまでは。
呑んで呑んで、呑まれたのは赤司である。幼馴染として、とても恥しい。壊れたようにケラケラと軽快に笑う彼は事切れたようにたった今目の前で眠った。

「赤司……?」

恐る恐る彼の友人であり、虹村の後輩である緑間が彼の名前を呼ぶが、そんな彼は既に夢の中である。

「青峰……」
「す、すんません」
「謝ったってこれどうするんだよ……ぐっすりだぞ、ぐっすり」

デコッパチである青峰の額を弾く。我ながらデコピンだけはかなり強いと思ってる。現に痛いと騒ぎ立てる目の前の大男の額は赤くなっていた。
元が黒いから分かりにくいが。
まぁ、そんな事はどうだっていいのだ。

「虹村ー」
「あぁ?」
「赤司が潰れた。泊まらすけど構わない?」
「どこで寝かすんだよ」
「私の部屋。幼馴染だしお互い男女としての対象では見てない。だから、布団敷くの手伝ってくれないか」
「へーへー」

丁度ベランダから出てきた彼は私の前を歩き遠慮なく私の部屋を開ける。それをさつきが見ていてため息をついているが何のことやら。
敷布団を出している間にベッドの上に赤司を落とす。

「は?」
「重い。無理。私が敷布団で寝る」
「お前……酒くさくなるぞ」
「……やっぱり?じゃあ、私が布団敷くから虹村、赤司をそこに置いてくれる?」
「はぁ……わかったよったく」

こっちがため息つきたいわ、元はと言えば私がちゃんと見てなかったのが悪いのだろうけど。
しかし、ワインには滅法強いのに何故酎ハイや日本酒は苦手なのだろうか。わからん。

「ん、ごめん」
「ほいっと」
「あ、投げるなよ可哀想な」
「お前もほってたらだろが」
「まぁ、他人のことは言えませんがね」
「だろうな」

そして私の幼なじみ赤司は夢の中へ。僕はお前達の敵であることを望む、とかこの両眼をくり抜いてお前達に差し出そう、とか言ってたコイツが……こんなに可愛らしい寝顔だとは思わなかった。

「虹村」
「ん?」
「幼なじみのこと、久しぶり可愛いって思った。何年ぶりだ」
「いや、知るかよ。んなこと俺にいうな」
「だって、高校の時瞳孔かっぴらいて」
「起きるぞ」
「……多分これは起きないね、絶対。二日酔いして頭抱えてリビングくるパターンだと見る」
「お前、酔ってんのか。やめろよ、また脱いだりベッド入ってくんの」
「酔ってませーん」

リビングに戻るとさつきや青峰、さっきまでずっと静かにジュースを飲んでいた紫原が帰る準備をしていた。
すっかり鍋の中の具材はからである。

「僕も帰る準備してますよ」

黒子もいた。忘れてたっていうか、見えないんだよね。うん、本当に見えないのよ、あなた。青峰の後ろにいると余計に見えないから。
だってあのガングロ青髪デカ男の後ろにいてみろ。影が薄い黒子なんて、あってないようなものだ。いや、言いすぎたか。

「帰んの、お前ら」
「あ、はい。長々と居座ってしまい申し訳ありませんでした」
「なーにいってんだ。とりあえず、お前ら酒、飲んでねぇだろうな」
「飲んでないですよ」
「青峰ーってアイツ……逃げやがったか」
「大丈夫ですよ、私が見張ってましたから!」

さて、カラフルな集団が帰ったところで片付けを始める。
これが始まったのはさつきが鍋パしませんかーと押しかけてきたことから始まったんだ。ていうかお前ら全員で来たの、と聞きたくなるカラフルさ。目が痛かったよ。

「虹村の話聞いたわ」
「ん?」
「黒子のパス顔面で受けたんだってな」
「は、誰がそんなこと」
「黒子」
「アイツっ」
「にじむーにもそんな所があるとは……何考えてたわけ」
「覚えてねぇわ」
「うわ、何考えてたのさ。言えないこと?」
「うっせ」

こうやって2人で台所たってるのが楽しい。
台所たつなんてこと、なかなかなかった私には新鮮な体験である。友情って素晴らしい。

「お前、何ニヤニヤしてんのキモイ」
「うっせ、ドージ」
「お前、この間ホールに入る段差でつまづいてたろ」
「うっせ」

ドジ、という言葉は当分使わないでおこう。うんそれがいい。


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