まだ青い君へ
メロスは激怒した、並の怒りだったのかもしれない。
もちろんそれはメロスじゃないし、ましてや私でもない。
だとしたら誰か、言わずもがな虹村である。私がなにかしたわけでもないのに、虹村は激怒しているのだ。表情に出ている訳では無い。雰囲気があるのだ、そういうものの。
それくらいは私にだって分かるものだし、気にしたことなかったのに彼が怒っている理由がわからずモヤモヤするのだ。
「……虹村」
「んだよ」
「怒ってる?」
「怒ってねぇよ」
「嘘だ、怒ってる」
「うっせぇ」
リビングにいた彼に話を聞こうとしたが、自室に入って行ってしまったため話も何も会話がそれ以上できなかった。うん、辛い。せめて何に怒ってるのかさえ分かれば謝るのだけれどなにせ何もわからないのだ。仕方がない。ただ、怒られているのも癪である。気になるしモヤモヤするし、何よりこちらがイラつく。
「私は何もしてないだろ!バカ虹村!」
「バカじゃねぇよ!」
部屋から出てきて胸ぐらをつかむような勢いで怒鳴った虹村。私もそれに負けじと怒鳴り返す。
「バカはバカだ!バーカバーカ!ガキ!」
「へっどっちがガキだ!ケツの青いガキが!」
「はぁ!?私がケツの青いガキだったら、同い年のあんたもそうだろうが!」
「そういう意味じゃねぇよ!」
「何だよ!なんかあったのなら男ならハッキリ言え!」
とまぁ、幼稚な喧嘩を繰り返すこと30分。
「彼氏いたのかよ!?」
なんでやけくそ気味で聞いたんだ、お前は。
「いたら虹村と住んでないわ!」
「お前図太いからな、そういうこと」
「はぁ?ていうか、何を根拠にそんなこと思ってたわけ」
「買い物してたろ、男と。しかも御丁寧に手を繋いで」
玲央を友人と言って話して彼に通じるのだろうか。それが不安で仕方が無い。そして玲央の事をオカマだと言ってしまっていいのか。いや、そんな言った言ってないを気にするような人じゃないのはわかってるけどそれでも、玲央の沽券に関わるんじゃないかといまさらながらどうでもいいことを思い始めた。いや、どうでも良くないのだけれども。
「あれは……」
なんていう切り返しがベストなんだろうか。
「絶賛男の子に片思いしてる中身女性のお友達です」
は?
と返されたのは言うまでもない。そりゃ、そんな事言われたらそう返すわな。私もそう返すわ。
「だから、あれは彼氏とかじゃなくて友人!」
「何だよ……」
「何がなんだよ、だわ」
「俺に彼女がいねぇのにお前にいるのにイラついてな」
「お前がよっぽどガキだ!」
そんなこと言いながら虹村の背中を全力で叩いたのだった。