宝を抱き込むセイレーン



何か酒のツマミつくるような材料買ってきてくれねぇか

一言言わせてくれるかな、虹村くんよ。私はパシリじゃねぇよ!
そのメールにそう返信すれば何も返ってこない。それがより怖さを増す。いや帰ったらすごい笑顔で手を差し出しながらん?って言われそうで怖いな。そんな威圧を与えてくれる彼の返信無しはかなり効果的だ。さすが変人集団をまとめるだけあるよ、君。

「はぁぁあ……」

とりあえず来た道戻ってスーパーの中に入る。
虹村、忘れてないか。私、料理壊滅的なんですけど。何買ってけばいいかわからないぞ。

「……こういう時のクックパッ」
「伊織?独り言でかいよ、バカみたいだからやめたほうがいい」
「……赤司、いつの間に」
「珍しい、買い物なんて。料理のできない君が」
「虹村に頼まれたからね。それと、一言毎回多いんだけど」
「へぇ。上手くいってるみたいだね」
「その説はドーモ」

ホタテやキャベツや安い肉やらハムやらポンポン籠の中に入れていく。その間も後ろをついてくる赤司と話をする。別に後ろをついてこなくともいいだろうに。
話の内容は部活がどうだ、とか学科の友人がどうしただとか、いつでも出来る話。

「そういえば、探してるみたいだよ、伊織のこと」
「アノ人?」
「ああ、連絡取れないってああいうのを半狂乱って言うんだろうけど」
「言ってない?」
「もちろん。携帯も変えたんだろう?」
「連絡しつこそうだし、アノ人」

赤司、君がまさかレジまでついてくるなんて思ってなかったぞ。しかもなんか払ってくれたし。いやこちらとしては助かるし嬉しいんだけども。心境微妙だ。ジジくさいものを買わせてしまったな、赤司に。

「虹村さんとはどうなの」
「どうなのってどうもないけれど」
「ふーん、つまらないね」
「もう私は君が何言ってるのかわからないんだが」
「幼馴染のいうことくらいは理解しておいた方がいいと思うけど」
「そういう意味じゃない」
「まぁ、お前アホだから仕方ないか」

この人アホって言ったよアホって。幼馴染に向かって酷いな。そして話を聞いてくれ、頼むから。

「赤司は、私の対応が結構塩対応だよな」
「そんなことないよ。仲いいじゃないか」
「え」
「そうか、そんなに居所をアノ人に教えてあげて欲しいと」
「うそうそうそうそ!仲いいです驚くほど!」
「それはその言い方で何だかイヤだけどね」

同世代といる時の私の幼馴染はやはり生まれてくる歳が幾年か早かったかな、なんて思うのにどうして私といる時は全くそうは思えないんだろうか。砕けているというか、砕けすぎているというか。

「荷物持たせてごめん。ここまででいいよ、ありがとう。赤司、あっちだっけか」
「軽かったから構わないさ。じゃあ」
「うん、ありがとう」
「またね」

分かれ道、左を行く私と右にいく赤司。手を振っても振返してくれることはないが、それでも多分見えなくなるまで見ててくれたんだと思う。振り返ればずっといるから。

「虹村ーただいまーは」
「おー、おかえり『パシリ』」
「パシリじゃないやい」

扉を開けると香ばしい匂い。ヨダレが垂れる垂れる。

「何、ご飯」
「色々。食うだろ」
「食べさせる気がないって言われたら金倍取ってやろうかと思った」
「あ、金。いくらだった?」
「あ、返さなくていい。赤司が払ってくれたからな」
「はぁ?お前、何借り作ってるんだよ……」
「別に幼なじみだし、お金持ちだし、気にするな」

袋を渡してスニーカーを脱ぐ。と、今更だがそういえば虹村の友人が来ていたんだった。丁寧に並べられている靴に気づいた。本当に今更だ、挨拶しなければ。

「こんばんは、お邪魔しています」


『あ』


そこにいたのは先日助けていただいた美人なイケメンさんでした。


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