鍵を開けようとしている黒尾さんの後ろを通りかかれば声をかけられる。この人は本当に何がしたいんだろうか。初日によろしくしないでくれと言ってこっちもだよと言った人か、本当に。

「何ですか」
「いや、別に」
「……そーですか」

今日もこの人インスタント食品何だろうか。いや、今日は早いしなにか作るだろう。私は何を心配してるんだ、あってまもないのに。

「お前、今日の飯何」
「……簡単なもので済ませます」
「肉じゃがとか」
「……何でですか」
「お前は何でも何で何でって聞くのな」
「聞きたくなるでしょう。意味もわからないこと言われたら。オジサン、そんなこともわからないんですか?」
「うっせぇよ、ガキんちょ」

正直面倒くさい人のお隣になったと思う。何か会えばいちいち話しかけてくるし、もう片方は空き部屋のようでよかった。こんな人がもう1人いたら私はもう引越しを決め込んでいたかもしれない。面倒くさすぎる。
こういうのが現代の若者はダメなのだろうかね。

「じゃ、またな」
「はぁ」

何でまたな、なのよ。また会うの。いつ、朝?嫌だよまたゴミ出し手伝うの。
玄関で履きなれた運動靴を脱ぎ捨てる。カバンをソファの上に脱ぎ捨てて冷蔵庫へ直行する。親のおかげか、祖父のおかげか、酒が強く酒好きな私の冷蔵庫には手軽に買える酎ハイなどが大量に入ってる。

「カンパーイ」

独りで天井に向かって酎ハイを出す姿はひどく滑稽だろう。
鍋に入っている肉じゃがに火をかけてご飯を温める。こういう時に料理を教えてくれた母には感謝である。
パーカーを脱ぎ、シャツ姿になりソファに座る。
てか、何であの人肉じゃがってわかったんだろう。カンって恐ろしい。

「すんませーん」

インターホンの音と聞こえた黒尾さんの声。

「はいはい、何ですか」

いそいそとパーカーを羽織り、扉を開ける。ニコニコした黒尾さんの顔と手に持っているものに自分の顔が引きつったのがわかった。

「飯くれ」

箸と茶碗。

「ふざけんなよオジサン」
「ひでぇな、オイ」

変な笑い声を上げて笑う黒尾さんの鼻先で問答無用、と扉を占めてやった。のに関わらず飯くれーなんてインターホンを押すものだから近所の目が……。黒尾さんや、今までインスタントだったんだろうよ。インスタントでいいじゃん。なんで来るのさ。

「……もう上がってください」

ダウンしたのはもちろん私だ。近所迷惑近所さんに目をつけられる。そんな理由でオジサンを部屋に上げる。黒尾さん隣りいないの、なんて言いかけてやめた。いなかったのを思い出したからだ。

「悪い」
「そう思うなら来ないでください」
「ま、そう言わず仲良くしようぜ」
「仲良くしないって言って他の誰でしたっけ」
「えー?誰だったー?ごっめーん、覚えてませーん」
「本当に子供ですね、黒尾ジサン」
「だーかーらー、その呼び方やめろって言ってんだろー」

炊飯器からご飯がたけた、と音が鳴り、肉じゃがにかけていた火を止める。

「ん」
「何?」
「茶碗、かしてください。ご飯、食べるんですよね?」
「あ、はい」
「皿、好きなの出して好きなだけ肉じゃがいれてください」
「おー」

家から持ってきた机は一人じゃ大きいくらいだったが、二人座るとちょうど良かった。
黒尾さん、体大きいから結構食べるだろうなと予想していたがあたったようだ。よく食べる、よく食べる。

「美味い……」

まぁ、そう言われて気を良くする私は軽い女である。

「……何かいりますか、他。軽くなら作りますよ」
「マジで?何でもいい。美味いし」

たまには他人とご飯を食べるのもいいな。それに、他人に食べてもらうのもいいかもしれない。
少し私が黒尾さんが仲良くなった瞬間だった。

「また来ていい?」
「……たまにですよ、たまに!」

へらりと笑った黒尾さんを可愛いとか思った私は今日限りだろうね。



突撃!隣の晩ご飯

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