小さな頃から何故か一人暮らしに憧れていた。両親の仲が悪かったからとか、家庭環境が最悪だったからとか、そんなドラマや小説の中の話みたいなことはない。まぁ、恋愛ごとなどは苦手だけれども。
ただ、『憧れて』いた。

「引越しはいいけど荷解き辛いぃ」

そう、もう私は1人。家で荷造りしてる時はお母さんに小言を言われながら手伝ってもらったものの、ここからはもう1人なのだ。
小さなアパートで1LKで、ちょっとお値段は普通の学生マンションよりお高めだが自分で必死に探して決めた念願の一人暮らし部屋だ。

「ダンボールが……1.2.3……はぁ、数えるのやめよ」

まだ大学始まるまでに5日あるし、それまでにいろいろ決めて、荷解きしなくては行けない。

「お隣さんに挨拶しないと。よっこらしょ」

重たい腰をダンボールの山の前を見上げてから持ち上げてお母さんに持たされた紙袋を引っ掴む。キィ、と小さな音を立てながら扉を開ける。まだ春なだけあって外は涼しい。というか肌寒い。急いで衣服のダンボールからカーディガンを出してはおった。
さて、と挨拶をすべき隣さんの表札を見る。

「クロ、オ?」

なんかめっちゃカッコいい苗字ですが。某バスケ漫画にこんな感じの名前出てこなかったっけ。あ、あれはクロコか。

「呼んだ?」
「はえ!?!?」
「蝿?」
「え、あ、え?どちら様で……」
「ボクが黒尾デース」

はっきりいってもいいですか。
めちゃくちゃデカイオジサン。しかも髪の毛なんかすごいし。ワックスで決めてるつもりなのだろうか、だったら笑っちゃいけない。笑うな、こらえろ私。

「えっと、なんでプルプル震えてんですか」
「いや、あの、ぶふっ、すみません。ぶっ」
「いやもう笑ってるし。ぶふって言ってるから」
「いえ、そんな、ふっ……わ、私は#name1##name2#でふ」
「笑いすぎて噛んでるよ。もういいから、そんなに俺の頭がおかしいのか少女よ」
「頭はおかしくありません。髪の毛がおかしいんです」
「いや、否定してくれてありがとうとか言えねぇよ。上げてから落とすのやめてくれ」

最近のガキは……なんて呟いている黒尾さん?は何歳なのだろうか。まぁ、そんなの出合い頭、ついでに近所付き合いをこれからしていくであろう方にそんなの聞けるわけがない。
一通り笑ってから黒尾さんに改めて頭を下げてお蕎麦が入っている紙袋を渡す。

「隣に引っ越してきました、#name1##name2#です。よろしくお願いします」
「俺は黒尾鉄朗です。まぁ、なんかあったらいってくれ。面倒ごとはゴメンだけどな」

そして袋の中身を見た黒尾さんは噎せたように咳をして私に袋を突き返してきた。なんと失礼な人か。

「あれ……」

ふ、とお母さんが干したまま忘れていたと紙袋をもうひとつ渡してきたことを思い出した。それがお蕎麦が入った紙袋と同じ柄だったことも。

「お前、これはお隣さんに渡すものじゃねぇと思うぞ」

中身、私の下着だ。

「……お前、着痩せするタイプなのな」

悲鳴を上げてビンタをしようとした私の反応は当たり前だと思う。そしてそれを寸止めした私を誰か褒めて欲しい。
無言で返せばいいじゃん、着痩せするタイプなのな、とか言わなくてもいいじゃん!セクハラだよ訴えるよ!?

「オジサンサイテー!」
「だーれがオジサンだゴラァ!」
「よろしくしないでください変態ジジイ!」
「誰が変態ジジイだ!俺も願い下げだよ、クソガキ!」
「ガキじゃない!」

ドアを占める間際に両眼をつぶり舌を出してべーと言ってやった。我ながら子どもっぽいことをしたと思う。
てか何で気づかなかったの私。重さ全然違うじゃん。めっちゃ軽かったじゃん。
顔を合わせるのが嫌でちゃんとそのあと黒尾さんの扉のノブにお蕎麦は掛けておいた。



オジサンとワタシ

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