『こんにちわ、光です……?』
「そう。それから?」
『7歳です』
「うん。俺とはどんな関係?」
『えっと……征じゃなくて、征十郎さんとはお刺身です』
「お刺身じゃないから。お刺身は魚だ。《幼馴染み》だ」
『ぁ……』
今は見てのとおり何を聞かれてもいいように会話の練習。ちなみに光はだいぶ何でも一人でできるようになった。
特に本人は歌うことが好きなようだ。暇があれば母のレコードを聞いている。
洋楽ばかりなのにすぐに歌えるようになったのを見て母はとても驚いていた。
スキを見つけてはホラ、歌い出す。
「今は歌わない」
『っ!』
やつれていた頬も戻ってきたのか肉がつき摘めるようにまでなった。最初は皮と骨で作られた人形みたいだったからね。
「ほら、話を戻すぞ」
『はーい』
ショボンとした光の頭を撫でてやる。
光に反射して光る髪の毛は触り心地がいい。
だからいつもくくってやろうと思える。やりがいがあるからな。
『幼馴染みです』
「そう。じゃあ、御両親は?」
『えと……海外に行っています』
「どちらに?」
『ドイツです』
「うん。まぁ、マシになったよ。普通にもう話せるだろう?」
『うん!話せるよ?お話するの大好きだから!』
「そう?」
『うん!征は優しく教えてくれるから好き。……たまにほっぺ痛いけど』
「クスッ、話すのが辛くなったら失礼しますって言うんだよ?」
ああ、そうそう。今日の晩からなんだ、パーティーとやらは。
俺はあれが嫌いで仕方が無いのに。また愛想笑いを浮かべて縁談やら興味もない娘の話をされるのを黙って聞かされる。まだ俺は7歳なのに。
でも、光がいるなら我慢しようかな?なんて考えたりもしてる。
彼女を見ていて一週間でわかったのは光が周りを拒まない人間だということ。それに、優しすぎるくらいの性格。
一言で言うと結構な変わり者だと俺は思ってる。
でも相当なドジでおっちょこちょい。よく段差にはツマづく、何もない場所で転ぶ、怪我してくる、木に引っ掛けて腕を切る、こんなことをされてしまえばドジと認めるしかないだろう?
全く……目が離せないとはこのことだ。
『征?』
「ん?何だい?」
『これ征にあげるー』
手渡されたのは画用紙でそこには俺が書いてあった。しかも似ている。
ちらりと彼女を見れば既に本を右手に辞書を机において熱心に両方読んでいた。
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