『……実渕さん』


「こんにちは!」


『こんにちは』


頭をぺこりと下げると下げた頭に実渕さんの手が乗る。
顔を上げれば整った実渕さんの顔。やはり美人だと思う。


『今日は……?』


「こないだ、征ちゃんに会って逃げたそうじゃない」


実渕さんに会って1週間。同じ時間、場所に彼はいて笑っていた。部活だというのに彼は来ていて、その行為を無下にはできなくて来てしまった。
今回はちゃんとカバンを持って。


「前のところに行く?それとも……」


『今度は私が行きたいところでもいいですか?』


「ええ、構わないわ」


『よかった』


にこりと笑う彼は本当に綺麗で眩しい。


向かうのは緑間くんの時とは違う、もう少し実渕さんが喜んでくれそうなところ。
アンティーク調なのはアンティーク調なのだけれども少し乙女チックなところだ。


「わぁあ……綺麗ね」


ここはコーヒーだけじゃなくてケーキなどもある。ちなみに美味しい。
でもちょっと高めなのが私には来づらい場所でもある。でも今日はたまたまお金を持っているので、来てみたらやはり穴場。
人はポロポロと数人しかいない。

おじいさんが一人で切り盛りしているここはケーキも一種類しかないけど全部おじいさんの手作りだ。
ちなみに、頬が落ちそうなくらい本当に美味しい。


「で、逃げたのね?」


席に座った途端すぐに口を開く実渕さん。


『う、はい……』


歯切れの悪い返事に実渕さんは苦笑いをしてた。


「どうして?」


『やっぱり、怖くて……』


「でも、向き合うべきよ?」


わかってる、わかってるけど……それができないのはどうして?
私だって謝りたい、話したい。でもできないの。

誰か助けて……。


「まぁ、急かしちゃダメだって思うわよ、アタシはね?」


『え?』


「えって……だって急かしてもいい結果は得られないもの。ゆっくりゆっくり考えるのも一つの手よ」


その一言に私は泣きそうになる。というか泣いてしまった。
優しいと思ったから。
それからにこりと笑うと彼は口を開いた。


「綺麗だわ」


私の髪の毛を一房掴む。私が嫌いなその髪の毛。


「光ちゃんはアルビノ?」


『!!?』


目を見開いてうつむきかけていた頭を勢い良く上げる。彼の手に握られていた髪の毛が落ちる。
止んだと思った涙がまた流れ落ちた。机に涙が落ちて跳ねる。
実渕さんはオロオロしていた。


「ああ、泣かないで。ごめんなさい、いけないことを言ってしまったかしら……」


小さな丸テーブルでは実渕さんの長い腕には関係なしで。私の頬に伝う涙を指でぬぐってくれる。心配そうに私の顔を見つめる彼は泣きそうだった。
大丈夫、そう伝えたいのに喉が、息が、詰まって話せないのがもどかしい。
それでも無理をして話す。


『実渕さん、は、悪くありませっ……』


「本当かしら……嫌なこと言っちゃったんじゃない?」


『いえ、むしろ、ありがとう……』


綺麗、その言葉でどれほど私が助かっているかあなたにはわかりますか?実渕さん。


「!……どう致しまして」


また私の頭に実渕さんの大きな手が乗った。


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