『澪ちゃん、おはよう』
「お、姫やん」
『その呼び方やめてよ』
「何で?姫は姫やん」
澪ちゃんは私が高校一年からの友達だ。同じコーラス部で、私のことを姫と呼ぶ。ちなみに私はその名前が苦手だ。
大体澪ちゃんの友達は私を姫と呼ぶ。
「せや、昨日の彼とはどうなったん?その後」
『実渕さん?』
「お世話になった人の友達から苗字呼びに格上げしてる……!」
『ちょっと話してただけだよ』
「それで?送ってもらったの?」
『そうだよ』
「うわ〜、絶対気があるって。その、ミゾブチやったけ?」
『実渕ね』
教室についた途端そんなことを質問される。なんやら私はレズ疑惑が浮上しているらしい。うん、何ががあったんだろう。
皆から同じような質問をサラッとかわして自分の席についた。ちなみに澪ちゃんは私の斜め前だ。
「はぁーあ、疲れたァ」
『まだ学校来たばかりだけど……?』
「だって私らもうすぐコンクールじゃん?昨日、練習しとった。そしたら夜おそなってもうてん」
そっか、確かに私たちはもうすぐコンクールだ。てか私大会大会って言ってたけどコンクールだった。昨日、言っててモヤモヤしてたんだよね。
『澪ちゃん、昨日任せてごめん』
昨日、で思い出した。私は澪ちゃんに部を任せて実渕さんと話してたんだった。これでも部長だからね、私。
「あ、ホンマや!昨日はコンクール前でみんなソワソワしてんのに私に任せるとか酷いで」
『ごめんごめん』
購買のプリンで手をうってくれた。案外単純だった澪ちゃん。
「澪ー、光!!」
扉のところで私たちの名前を呼ぶのは同じコーラス部の友達だ。
『おはよう悠ちゃん』
「錦、おはようさん」
「二人とも、頼むからちゃんとした名前で呼んで」
彼女はピアノ担当の錦田悠里ちゃん。
私たちが略して呼ぶため部でもそうなってしまった。ごめんなさい。
「あんた、将生くんきたはんで?」
「え"っ!?何で将生が来てんの?」
「弁当二つ持って姉貴と光先輩いはりますかー?やて」
『あ、今日澪ちゃんが弁当係だよ。作ってきたくせに忘れてきたでしょ?』
「あ、それや。アハハ!」
「良かったなぁ、光ー。将生くんいーひんかったら今日購買やったで?お礼言うとき」
『ん。ありがとうって言っとくよ』
「ごめんなぁ、うっかりしてて……行こか」
『うん。ごめんね、悠ちゃん!ありがと』
廊下を歩くと後輩が挨拶してて、澪ちゃんが友達と会って話し込んじゃって、私はそれを止めてて、いつもの日常。
の、はずだった。
『せ、い……』
目に入ったのは馴染みのある赤い髪の毛。
「あ、せんぱーい!姉貴ー!」
ダメだ、そう思った瞬間逃げ出してる自分がいた。
「光!!!?」
「部長、あきません!ここは他校生が入るんは禁止ですよ!」
「ひ、姫!!?ちょ、将生弁当おーきに!姫追いかけるわ!ごめんな」
後ろなんか、振り向けなくて、そう言えばと思い出す。
澪ちゃんの弟はバスケ部でレギュラーだったこと。征はバスケ部で、主将だということも。
会って、しまった……。ダメだ、今日授業サボろ……頭痛い。
緑間くんにも会わなきゃいけないし……泣くな、私。
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