今は実渕さんが話してくれる。勿論征の話だ。でも征のことをちゃんと知らないと実渕さんは言う。きっと私よりも知っているかもしれないのに。
赤司くん≠。
「そうねぇ、ああ征ちゃんは生徒会長だわ」
中学の時もやっていたなぁ、としみじみと思い出す。
「それからモテてたわねぇ……」
それも中学から。
「……2年生になった時にあなたの話を聞いたわ」
実渕さんは3年生、征は2年生だった時に言われたそうだ。
「征ちゃん、言ってたわ。大事な子を傷つけてしまったって。ずっと悔やんでたみたいよ」
名前を聞いてみると言ってはくれなかったけれどずっと一緒に育ってきたと言ったそうだ。何故か泣きそうになった。そんなことを言われてしまえば会いたいと思ってしまう。
『実渕さん、聞いてもいいですか?』
「んー?なぁに?」
―征は楽しそうでしたか?バスケ
「どうかしらね。勝つことは彼にとって生きていく上であって当然、基礎代謝と変わらない。それが征ちゃんだったから」
ああ、やっぱり。落胆してしまう私はそれが嫌だった。過去に縋ってちゃダメだ、そう言い聞かせてもダメなものはダメだった。
「でも、あなたの話をするときは至極嬉しそうだったわ。あの征ちゃんがよ?ふふ、面白かったわ」
『そう、ですか……』
もう、あの頃の優しくてチームプレーをしていた征はいない。そう思うと涙が出てきそうになる。
私に今があるのはあの人のおかげなのに、私は全く恩返ししてない。したいと思うのに体が動いてくれないんだ。
私は一向に傷つけてもらって構わない。いや、べつにMというわけではないよ、決して。
彼がそれを望むのなら何も言わないのに何故彼はそれを悔やんでしまうのだろうか?
やはり私にはわからない。
『あ……』
実渕さん越しに見えたのは壁時計。
もう流石に帰らなくてはならない時間になっていた。実渕さんも気づいたのか驚いた声をあげて謝ってくれた。
「女の子をこんな時間まで出歩かせるなんて……ごめんなさいね?」
『いえ!気になさらないで下さい。ここから家、近いですし』
来た道を戻っていけば歩いて20分位でつくだろう。
遠いのかもしれないが時間があってうまくバスに乗れたら10分程でつくはずだし……大丈夫でしょう。
「送っていくわ」
『え!?そんなの悪いです』
「いいのよ!ほら、行きましょ?ごめんなさいね、本当。部活だったのに連れてきちゃったし挙句、こんな遅い時間まで……」
『でも、』
「いーってば!」
立ち上がった実渕さんは私の背中をグイグイと押してお金をちゃっちゃと払ってしまった。
店を出ると外はガラス越しからでもわかったけれど……真っ暗でやっぱり怖い。
「……真っ暗ね」
『ですね。もう、秋ですから』
「そうねぇ。あ、方向はどっち?こっちかしら?」
『あ、そうです。本当に大丈夫ですか?実渕さんのお家の方は……』
「平気よ。私、一人暮らしだもの」
『そう、ですか?』
そうやって私は結局実渕さんに送られて帰ることとなった。
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