大雨
ザァザァと耳に付く音。
車に乗っているから濡れはしないけど道路に溜まっているうざったい雨を車が踏む度に嫌な音が聞こえた。
雨は嫌いだ。
濡れるからってのもあるが、音が、何よりも嫌いだった。
そんな中いきなり急ブレーキがかかり、体が前に傾いた。
キキィイー!!!!
「っ!!?」
「坊ちゃん、ご無事ですかっ!?」
「あ、ああ。それより、何だ?」
「こ、子供が……」
車の前には無用心にも髪の毛を引きずるようにして歩いている女の子がいた。
きっと、俺と同い年ぐらいの。
運転手がクラクションを鳴らしても驚いてこちらを見るだけで動こうとしない彼女。
あまりにも儚げで消えてしまいそうだった。
「……傘を」
「は?」
「傘を貸してくれ。早く」
傘を持ってきた運転手が車の扉を開けた。
傘を受け取って自分でさす。それから少女に近寄った。運転手が後ろで何か言っているが気にしない。
「何をしてる」
『ぁ……』
「何だ、話せないのか?」
言葉を知らないのか、ぁ……と小さくつぶやいてから黙ってしまった。
よく見ると少女は傷だらけで冬なのに半袖を着ている。
それに不健康だと一目で分かる細さ。このまま放っておけば死んでしまうかもしれない。
「……おいで。何もしない」
「坊ちゃん!?」
「俺は赤司征十郎。君は?」
『あか、せ、ろう?』
「クスッ、呼びやすいように呼べばいい。手を」
彼女に雨がかからないように彼女と傘を半々にして使えば運転手が目を見張って俺を見た。
「どうするおつもりで?」
「このままでは確実に死ぬ。一度家に連れ帰るよ」
「何をおっしゃいますか。それは無理にございます」
「俺が何とかする。一先ず家に帰るぞ。このままでは風邪をひく」
「……わかりました」
車に乗り込めばタオルで彼女の体を拭いた。
この時俺は7歳。彼女も7歳だった。
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