それからカフェに入ると二人で座る。
勿論向かい合って座った。ウェイトレスたちが、実渕さんを見つめるなかそんなことは慣れているのだろう、飄々としている彼。


『……』


「もう、顔が硬いわよ?せっかくの美人が勿体無い……」


あなたに美人と言われると何故か自信をなくします……。


「あ、なんでも頼んで?私の奢りよ」


『え!?そんなの悪いですよ!』


「いいのいいの。部活の邪魔しちゃったしね」


『……有り難うございます』


「ふふ!もう、可愛いんだから」


長い腕を伸ばして私の少し膨らませた頬をプニプニと触る。プニプニされる度に変な声が漏れてしまう。


『ちょ、…………やめてください』


顔を振るとこれまた笑われる。もう、ヤダこの人。


「あ、頼むわよー?」


実渕さんがウエイトレスを呼んでくれた。
ここの店の服、可愛いかも。また今度ゆっくり一人で来ようかな。
実渕さんがいると、女性店員の人は彼を見るもんだから落ち着いていられない。


『何頼むんですか?』


「ん?このチーズケーキ。光ちゃんは?」


『……じゃあこの、珈琲で』


「アラ、大人」


『そうですか?あんまり甘ったるいものは好きじゃなくて……』


「そうなの?」


『昔は好きだったんですけどね?』


要約ウェイトレスが来てくれて二人とも注文を済ませる。
静かな時間が流れた。お店は二階にあったから窓を見ると道を歩いている人が上から見えた。実渕さんをちらりと見ると私を見ていた。


『……何でしょうか?』


「笑わないなぁって思ったのよ」


―征ちゃんから聞いている限りよく笑うって聞いてたものだから


征ちゃん征ちゃん……そう呼ばせてくれたのは私だけだったのに。
でも、赤司くんとも呼ばせてくれなかった彼。



『そうですか?昔は純粋無垢な可愛い女の子だったんですよ』


「自分でそれ、言っちゃうの?」


『いいじゃないですかー』


よく見ると怖い時もあるけど実渕さんはよく笑うと思う。普通に歯を見せて笑う感じから微笑む感じ。
本当に女顔負けの綺麗な整った顔。


「それより、部活は?何があるの?」


『部活ですか?うちの学校にはコーラス部とオーケストラ部、オペラ部に演劇部くらいですよ』


「あら、本当に音楽とかそっち系に進むものばかりなのね」


『そうですね……それ前提で入学するみたいですから、みんな』


「光ちゃんは違うの?」


『私は……』


そうだと言えば違う。違うと言えば違う。……まだ、決まってない。


『わかりません。ただ、好きだったので』


でも、もう私の歌を聴いて笑ってくれる人の温もりは隣にはないのが悲しい。
いつもいてくれたのに無くなるととても悲しいのを知った。


「そうなのね〜、私はデザイナーになるためにそういう大学に通ってるの」


『そうなんですか?』


「うん。それでね、個人的に頼みがあるの」


『?』


「昔の話を聞かせて欲しいのと……モデルをやって欲しいの。一回だけでいいわ!お願い、この通り……」


凄いなって正直思った。
自分の思いに真っ直ぐで、夢に向かって必死で歩いていて。


実渕さんの瞳は輝いていて、とても綺麗だった。


『手短でいいのなら……話せるところまで話します。ただ……途中で泣いてしまったらごめんなさい。あと、モデルの話は考えさせてください』


「……大丈夫。ゆっくりでいいわ」


実渕さん、実渕さん。
今日は長い日になりそうですね。私はあなたに話すことなんてないと思ってたのに……話さなきゃ返さないって顔をしているものだから……話してあげましょう。


私と彼の滑稽な始まりと終わり方を。


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