あの日、私が彼の告白を断ってから3ヶ月が経った。もう受験シーズンで私も大学入試のセンター試験を受けたばかりだ。
彼、征とは結局あの日から何も話していないしってもいない。

そして、他校生やOGなどが学校内に入ってこれるようになった。
とは言ってもやはり関係者以外は入れ難いらしく、彼氏からのお迎え、なんてものは許されないらしい。だがら未だに来ているのはOGなどだ。


『澪ちゃん』


「んんー?」


ただいま図書室。澪ちゃんの勉強の手伝い。澪ちゃんはクラスの中では結構成績は下のほうなのでもう必死で……。
ついていけなかったりする。


ちょっと目を離すと寝てるし。


「どったのー?」


大欠伸をして問題集から顔をあげて私の顔をまじまじと見る。
目の下には大きな隅がある彼女は今眼鏡仕様になっている。元々目が悪いのに受験勉強をしていたら悪くなったらしい。


『……もし、澪ちゃんなら男の人にプロポーズされたらどうする?』


「…………………………は?」


『ごめん、待って。頭の中整理してから話すよ』


「ああ、うん……」


再び問題集に顔を戻し厳つい顔をしながら問題を解き始める澪ちゃん。そうだ、澪ちゃんは受験勉強中で、私もそうなのに。
まだ合否とかわかってないから不安なのに。こんなことに現を抜かしている場合じゃない。


『もし、もしね。澪ちゃんのことが好きで、澪ちゃんもその人のことが好きだとするでしょ?』


いらない裏紙にA君と澪と書いてまるで囲む。矢印を二人の間に書いて上にハートマークを書く。


『それで、A君に澪ちゃんが告白されたとする。結婚前提で付き合って欲しいって』


「うん」


『でもね、彼には許嫁がいる。彼の将来は決まってるとしたら、澪ちゃんはそれを受ける?受けない?』


「…複雑やな。そうやなぁ、私なら……姫は?」


『私は……そりゃあ、彼の傍に居たいに決まってるよ。けど、許嫁がいるなら断っちゃうかな』


ごめん、ごめん、と心の中で唱えながらそうしてしまう自分がいるのだろう。したくなくても、彼の幸せを願えなくても、彼の人生を壊してはいけないから。


「……そっか。私は反対かもな」


『え?』


「反対。だって、私はこのAのこと好きなんやろ?だったら一緒にいたいもん」



何て、真っ直ぐなんだろうか。
……私には真似できないようなことを澪ちゃんはど派手にやってくれる。主張してくれる。だから、遊牝るんでるんだと思う。
全く違う二人だから、きっと一緒にいる。それは私が望んでいる答えを彼女が言ってくれるから。


『澪ちゃん……私一回家に帰ろうかなぁ?』


「忘れ物でもしたん?」


『違うけど……実家の方』


あそこを実家と呼んでいいのかわからないが、私にとって実の家で、実家なのだ。


「実家の方って東京じゃなかったっけ?」


『うん。新幹線乗れば2、3時間で着くし……』



「言ってきたらええやん?彼やろ?こないだコンクールに来てくれてた赤髪。ずっとお世話になってた人って」


『……うん』


「姫はさ、求めすぎ無さすぎ。もっと欲しがって求めていいんちゃう?私はそう思うで」


『……そう、かな』


「きっと」


問題を見るとじっくりそれを見ている割には全く進んでいない澪ちゃん。それは私も同じ。
こんな色恋沙汰に関わっていたらいけないことくらいわかっている。でも、私も求めていいのだろうか?


欲していいのだろうか?彼を、


赤司征十郎と言う人を。


『……澪ちゃん、ありがとう』


「はいはい。早く行きやー。何があっても逃げないで。な?」


『はい!』


「よろしい。姫なら第一志望のとこ、受かってると思うし。実技も行けたんやろ?せやったら大丈夫」


『……本当、ありがとうございます』


澪ちゃんは色んな意味で私とは全然違う。
だからこそ、私の背中を力強く押してくれるんだと思う。

だから、ありがとう。


『行ってきます』


そう言うと私は電車に乗り込んだ。


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