「初めまして、光を拾った$ヤ司征十郎です」


拾った、その単語を少し強調しながら頭を下げた征は私の出る幕がないとでも言いたそうに私を後ろに追いやった。


「赤司?赤司ってあの?」


「ご察しの通りかと」


「あらっ、それは見苦しいところを見せたわ。拾って下さってありがとう。この子が逃げたばかりに迷惑を……」


この女は遊んでばかりなのだろう。水商売をしては男に金を使っていたのだと思う。服装からしてそうだ。
胸元の空いた大きなスリットの入ったそのワンピース。香水臭く、鼻がもげそうだった。


「いえ。しかし、光に名前を聞いたところ……虫、邪魔な子など言っていたようですが?」


「……そんなの、その子の妄想でしょう?」


「しかし当初、彼女は話せませんでした。その言葉しか、まるで話せなかった。他にも死ね、など暴言の言葉も入っていました。7歳にして、その言葉しか話せなかったのは家庭に問題があったとしか考えられません」


どんどん話していくに連れて女の顔が歪んでいく。
それをハラハラしている顔で見ている実渕さんと帆奈美さん。そう言えば帆奈美さんは苗字を何と言うのだろう。
そんな場違いなことを考えながら後で聞こうと胸に留めておいた。


「だが、赤司さんよ。そいつは紛れもねぇ。俺らの娘だ。俺らがどう扱おうが勝手だろう?お前さんには将来があるがこいつにはない」


開いていた扉から顔をのぞかせたのは剃らずに放置されているヒゲをはやした男。私と血のつながった父親だ。
痩せこけた頬、汚いシャツ。酒臭いその男に私は顔をしかめる。
そして一歩前に出て二人に叫んだ。


『私は将来、音楽の道に進んで旦那様に今までの借りを返すんだ!あんた達にあげる金なんてないッ』


「ハッ、んなもんお前が必死で働いたらすむだろう?その旦那様と俺らに金を渡せばいいんだよ!」


『嫌だ!帰ってよ!私はあんたたちに話すことなんかない!』


「じゃあ、一緒に帰るわよ。失礼するわ、赤司さん、長い間娘をありがとう」


『娘なんかじゃない!離してよっ』


「黙りなさい。その容姿も役に立つでしょ?赤紫の目に銀色に近い白の髪。気味が悪いのにその容姿が活かされるのよ?喜びなさい」


『やだっ、征っ、征ぃ!』


「黙れ。それとも何だ?援交でもするか?そっちのが早く金が稼げる。男の下で喘いでるだけで金がもらえるんだからな」


汚らしい笑を浮かべて私の腕を引っ張り顔を目の前に持ってくる。
顔を背ければ顎を持たれ無理やり前に向かされた。タバコ臭くて嫌になる。


「あなた、いい加減にしなヨ!!女の子の気持ちも考えろっ!!」


「部外者が口出すんじゃねぇよ!」


「うるさい!光は僕の大事な人だ。約束もしてある!離れるな、と。だから勝手に連れていくのは僕が許さない」


「あら?親子に部外者が口出しするのかしら?これは私たちの問題よ。放っておいて頂戴」


「それは無理な話だ。帰るのは貴方達二人だけだ。ここから立ち去れ」


一瞬腕を掴んでいたその手が緩くなった。振りほどいて逃げ征の胸元に飛びつく。
嬉しかった。



まだ、傍にいていいと知ったから。
認めてくれたから。



今認めて欲しい人はたった一人、征だけなんだよ。私の中で。



『私は貴方達と一緒に行く気なんてないし話すこともなければ金を渡すこともない。さようなら』


そう言えば背中に大きな薄いけど火傷の痕があったのを思い出した。
でもそれにはワンピースを少々脱がなくてはならないので今はやめておこう。
この人達が私を虐待していたのは確かだろう。


仕方なしにとでも言いたげにこの部屋から出ていった二人はまだ何かを企んでいるようだった。


力が抜けて床に座り込む。


「光ちゃん!?」


『実渕、さん……ちょっと、腰が抜けて……』


「大丈夫?」


『はい』


手を伸ばして立ち上がらせようとしてくれたけれど腰が抜けて立ち上がれなかった。
そんな中征が私を抱きしめそのまま抱っこの形に持っていかれてしまった。


『ぅ……』


「コアラみたいだ」


『ひどい』


「そう?可愛いよ、アイツ」


『可愛いけど……例えが微妙』


「じゃあはい」


お姫様抱っこに変わったそれは私の顔を赤くさせるのに十分だった。


「可愛いよ、光」


『は?え……っ』


目の前が征で一杯になって征の顔以外は見えなくなる。



「きゃぁー…って玲央、なんで隠すの?」


「あんたは見たらダメ。光に欲情してんでしょ?」


え?今すっごい聞き捨てならない言葉が……!

って、それより……!


『ちょ、せっ……んん…ぁ…む』


「ん……何?……っは」


ドンドンと少女漫画とは全然違い力強く征の胸を叩くと離れていく彼。
お姫様抱っこにキスというオプション付き。しかもしてくれてるのはイケメンときた。誰でも女子はきっと倒れると思う。

でも……


『バカっ!何で初めてのチューがディープなの!?』


そう。しんどかった。辛かった。


『それに何で帆奈美さんは私に欲情してるんです?!』


「私女の子好きなんだヨ。特に美人は大好物。ヘヘッ」


恐ろしい……。


「すまない。つい……」


「征ちゃん、つい、は一番ダメよ」


「離れていたのが長くてね。耐えられなくて……つい」


『ひどい。でもまぁ、いいかなぁ』


「何で?」


『だって……』


―好きな人と初めてだったら嬉しいもの


「ほら、またそうやって光は僕を誘う」


『な!?違うっ!』


また、実渕さんと帆奈美さんの前でキスをされた。それはさっきとは違う、喰うようなキスじゃなくて優しいキスだった。


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