ねぇ、光?将棋を知ってるかい?


光、これはポニーテールって言うんだ。


何してるんだ、まったく……鉢植えをひっくり返すと父様に怒られるよ、馬鹿。片付けるから早く手伝ってよ


すごいよ!光!やれば出来るんだ


もう、いい加減にして。これはここじゃないって何度言ったらわかるの?


フフッ、おいで。怖いの?震えてる……一緒に寝ようか


大丈夫。大丈夫だから……だから、今だけ……今だけでいいんだ。このままでいて……


もう二度と……


二度と僕の前に現れるな


『っは!!?……は……はぁ、ぁ……くっ』


征のあの顔が離れない、現れるなと言った彼の顔が。
吹っ切ることができない。


「目が覚めたのね……大丈夫?」


『実渕さん……はい、大丈夫です。何があったんですか……?』


「倒れたんだヨ?びっくりしたー。だっていきなり倒れるんだもん」


『…………帆奈美さん』


「帆奈美ダヨ!」


ニコッ、と明るく笑った彼女は相変わらず化粧は薄いのに顔は派手。
一般的に言えば美人。羨ましいな、濃ゆい顔で。私は色素がないし薄いから。
上体を起こして辺りを見渡す。どうやら簡易の休憩所のようだ。


『あ、の……』


カーテンがしてあった。それをいっきに開いて現れたのは赤い髪で。


『ぁ…………』


一瞬逃げようと考えてしまった自分がいるのが嫌でぎゅっ、と目をつむった。


「光ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」


その人は私を抱きしめていた。涙声で私の名前を呼んでくれる。聞いた事あるその優しい声に心から喜んだ。
ああ、ここにいる。もうきっと私は離れることなんかできない。


「あい、たかった……もう、どこにも行かないでくれッ!」


その力強い腕に私は閉じこめられていて泣きそうになった。懐かしいこの腕、胸、匂い。
ごめんなさい、旦那様。約束を破ることをお許しください。


『せ、いっ……せぃ、せ、い……征!』



もう名前を呼んで抱き締め返してもいいですか?


許して、くれますか?


「……よかった」


そんな私達を抱きしめたのは実渕さんだった。
二人とも変な声を出しながら実渕さんを見やる。私たち二人よりも嬉しそうに笑っていた。


「もう感動の再会とやらは終わった?」


扉が開いたと思ったらあの女の声がした。私を虫と、悪魔と、呼んだあの女。


「誰だ?」


「あたし?あたしは三室文恵。その子の母親」


『帰って!来ないでよ、今更何の用!?』


実渕さんの腕の中から出ると母親と呼ばれる女のところに行く。胸ぐらを掴む勢いでそこに行ったのに征が止めた。
それを滑稽そうに見るその文恵。その女は鼻で笑った。


『何よ……』


「いや?よかったじゃない。あんたにも存在価値ができたんだから。歌手になればいい。お前ならきっと売れるよ!」


自分が利用されるのが嫌だった。
あの頃だったら、あの、拾われた頃だったらきっと嬉しかったことだろう。
だって認めてもらえたから。ここにいていいと言われたようなものだから。


『捨てた人なんてもう親じゃない!従うつもりなんてない!』


「あら、あれはあなたが勝手に逃げたんじゃない。捨ててないわ」


『ッ、よくそんな嘘が付けるわね!?覚えてる、あの男が私の頭を殴って、衝撃で気絶して……その時に車から放り出したんじゃない!』


「あら、失礼ね。そんな親、どこにいるの?」


『くそっ』


いくらでも、言い訳くらいできるのだろう。私が虐待されていたという証拠がないのだから。

でも、罵る言葉が汚くてもいい。この人がどっかに行ってくれたらそれでいい。

大人は汚い。
痕がないから、こうやって簡単に嘘が付ける。
キタナイヒト。


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